連載:キャラクター経済圏~永続するコンテンツはどう誕生するのか(第20回)
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世界で最も商業的成功を収めたキャラクターとも言われる「
ポケモン」が、一時期、日本市場において人気・売上の点で勝つことができないキャラクターがあった。それが「妖怪ウォッチ」だ。爆発的ヒットの理由を探ると、妖怪ウォッチの生みの親・LEVEL5(レベルファイブ)社による、小学館・バンダイ・東宝などを巻き込んだ戦略があった。今回は、妖怪ウォッチやイナズマイレブンなどをヒットさせたレベルファイブの戦略を解説する。
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ポケモンを超えた「妖怪ウォッチ」、生みの親は新興企業?
「妖怪ウォッチ」とは、漫画やアニメ、ゲームソフトなど、複数媒体を用いたクロスメディア戦略を前提としたプロジェクトとして誕生した作品だ。妖怪ウォッチは、どれほどの人気ぶりだったのか。
2014年7月に発売された家庭用ゲーム『妖怪ウォッチ2元祖/本家」は年間305万本、12月発売の『妖怪ウォッチ2真打』も200万本も売れている。これは同じ年に発売された『ポケットモンスター オメガルビー・アルファサファイア』の約246万本を上回り、モンハン・スマブラなどの同時期の他社競合作品を上回る年間販売記録であった。
この年、妖怪ウォッチを生み出した、ゲームソフト会社のレベルファイブ(LEVEL5)は、合計621万本のゲームソフトを販売し、任天堂に次ぐ「日本第2位」のメーカーとなっている(バンダイナムコやソニーよりも上位)。まさに、衝撃的なジャイアントキリングの事例と言える。
もともと“新興”ゲーム会社はスクウェア・エニックスにせよ、カプコンにせよ、コーエーテクモにせよ、1980年代に出そろっていた。すでに成熟していたゲーム業界において、まだ創業15年足らずの福岡の会社がゲーム業界の頂点に上り詰めた時期があったのだ。
ゲームや玩具だけに限らない。2014年12月の映画『映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』は初動2日間で16億円、148万人動員と東宝史上新記録を飾った。最終約77億円の興収は同年のポケモン映画の29億円を倍以上引き離した結果であった。
さらに、妖怪ウォッチは、ユーキャンの新語・流行語大賞ベストテンにも選ばれ、第65回NHK紅白歌合戦にも登場する。マクドナルドで販売される子供向けカレンダーも、2006年から8年間ずっと王座を譲らなかった「ポケモン」が初めて妖怪ウォッチに乗り換えられ、「年間最も売れたカレンダー」としてポケモンが2010年に打ち立てたギネス記録147万部も、妖怪ウォッチはわずか2週間で150万部に到達してしまう。
Googleトレンドでもそれが如実に表れている。2014年5月から2015年4月のちょうど1年間は、完全にポケモンを妖怪ウォッチが超えていたのだ。
どんな作品を手掛けてきた?ゲーム会社「LEVEL5」は何者か
レベルファイブは、1998年にリバーヒルソフト出身の日野晃博氏が始めた会社で、SCE(ソニーコンピューターエンターテイメント)の下請けとして『ダーククラウド』(2000年)や『ダーククロニクル』(2002年)などを開発してきた。
そうした活動を目に留めたのが、スクウェア・エニックスにいた渡部辰城氏だ。会社7年目で受託した『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』(2004年)が、レベルファイブの出世作となる(2009年にも『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』を担当)。
日本を代表するIPタイトルの開発で名を成したレベルファイブは、その後『レイトン教授と不思議な町』(2007年)、『イナズマイレブン』(2008年)、『二ノ国 漆黒の魔導士』(2010年)、『ダンボール戦機』(2011年)など、立て続けにオリジナル作品を発表し、続々とヒットを生み出していった。
だが、レイトンや二ノ国などの作品は、あくまで「年1本出す新作家庭用ゲームソフトのヒット」に過ぎなかった。同社の代表 日野氏は単なるゲームメーカーではなく、IPそのものを“メディアミックス”で広げていく手法を編み出したのだ。その最初の成功事例となったのが「イナズマイレブン」だ。
特定の時期にどれだけ検索されたかが分かるGoogleトレンドを見ても、同社のIPの中でイナズマイレブンが急上昇を示していることが分かる。ここからは、同社の「イナズマイレブン」を成功に導いた戦略を解説する。
【次ページ】「イナズマイレブン」を大ヒットにつなげた“ある起爆剤”
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