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とどまることのないインフレ下においても、日本の賃金上昇が追い付いていない。そのため消費者はコストや価格により敏感となっており、企業は生き残りをかけて、コストで差別化するか、品質で差別化するかの選択に迫られている。だがそうした戦略とは一線を画す方法で、ブルー・オーシャン市場の開拓に成功を収めている企業・サービスが存在する。それが低価格理髪店のQBハウスや、フィットネスジムのchocoZAP(チョコザップ)だ。本稿ではこの両サービスを例に、新市場を開拓するビジネス戦略の秘訣について解説する。
「ブルー・オーシャン戦略」で低コスト&高付加価値を実現
「ブルー・オーシャン」とは競争のない未開拓市場を指し、INSEAD(欧州経営大学院)教授のW・チャン・キムとレネ・モボルニュが著したビジネス書『Blue Ocean Strategy(邦題:ブルー・オーシャン戦略)』で提唱されているビジネスモデル戦略である。
一方、成熟化の進んだ業界で競争が激化し、その結果として、コスト競争を強いられる状態を「レッド・オーシャン(血で血を洗う競争の激しい市場)」と呼ぶ。
賃金の上昇がインフレに追いついてない日本において、消費者はコストに対してより敏感になっている。こうした状況に対し、「ブルー・オーシャン戦略」では、同質化していく過度なハイスペック競争やコスト競争から脱却するアプローチが示されている。
そのアプローチが、「減らす」「取り除く」であり、その上で特定の機能を「増やす」、あるいは新たに「付け加える」ことである。それによって、顧客に新機軸の価値を提供する「バリューイノベーション」を実現するのだ(図1)。
競争戦略において、マイケル・ポーター(ハーバード大学経営大学院教授)は「事業を成功させるためには低価格戦略か差別化(高付加価値)戦略のいずれかを選択する必要がある」と提唱する。しかしブルー・オーシャン戦略では、「『減らす』『取り除く』ことによる低コスト化と、『増やす』『付け加える』ことによる顧客にとっての高付加価値は両立し得る」と主張している。
つまり、この戦略によって「低コスト・高付加価値」のビジネスモデルの構築が可能となる。ここでのポイントは高価格=高付加価値ではなく、低価格=低付加価値でもないということにある。
任天堂Wiiや俺のシリーズなど「成功事例の共通点」
同書では、世界最大のサーカス団であるカナダの「シルク・ドゥ・ソレイユ」(コロナ禍に破産し、現在別の経営陣で再開)やオーストラリアのワイン「イエローテイル」、米国の「サウスウエスト航空」、日本でもお馴染みの女性専用フィットネス「カーブス」など、さまざまな国・業界のブルー・オーシャン戦略が紹介されている。
日本企業のモデル事例としては、キュービーネットが展開する「10分1,000円」(現在は税込み1,350円)の理髪店「QBハウス」が挙げられている。
そのほかにも同書には掲載されていないが、任天堂の「Wii(ウィー)」やその後継機となる「Switch(スイッチ)」なども日本におけるブルー・オーシャン戦略の優良事例である。高画質かつ高性能のハイスペック競争となっていた家庭用ゲーム機市場で、画質よりも体を動かすというコンセプトで大ヒットした。
また、高級フレンチやイタリアンなどを手軽に食べることができる価値曲線を創造した「俺の」シリーズのレストランも同様に秀逸なビジネスモデルと言える。
すべてに共通しているのは、ブルー・オーシャン戦略の定石どおり、それぞれの業界の中で当たり前と思われ、本来競争要因となるものをあえて「減らす」「取り除く」ということを実践し、その上で特定の機能を「増やす」「付け加える」ことによってメリハリをつけていることである。このメリハリが描く曲線のことを、戦略キャンバスに描く価値曲線「value curve」と名付けている。
今回は、既述のQBハウスと、近年RIZAPが展開し人気を博しているコンビニジム「chocoZAP」を例に、「減らす」「取り除く」「増やす」「付け加える」をより具体的に解説する。
次のページでは、急激な事業成長を遂げたQBハウスとchocoZAPのブルー・オーシャン戦略を解説する
【次ページ】QBハウス・チョコザップがブルーオーシャンを開拓できた秘訣とは
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