林氏はこの他に、決算プロジェクト、経営管理システムの検討プロジェクトも進めてきた。企業の情報開示が課題となるなか、投資家や株主などのステークホルダーに対して決算情報をタイムリーに開示していくことを目的とした決算プロジェクトは、決算処理期間の大幅な削減に成功。2005年は3月末締めから1カ月以内での決算発表を実現した。一方、経営管理システムはいよいよ構築段階を迎えており、こちらもグループ会社を含めた情報開示の早期化が大きな目標となる。多数のグループ会社を抱える大組織にとって、これは決して容易なことではない。

「経営管理システムでは、予算や予測といったものを素早く把握してタイムリーに開示していく必要があります。したがって、経理部門だけでなく、企画部門や予算策定部門などと連携して計画を進めてきました。

　当社はカンパニーごとにグループ会社があり、連結ベースで正確にカンパニーごとの業績をとらえていこうというのですから大変です。対象範囲が非常に広く、次のステップを見据えれば、グループ会社も巻き込んでのシステム統合が必要になる。こちらは長いプロジェクトになりそうですね。会議にも毎回20～30名が参加しており、それぞれのニーズを集約するだけでも大変です。」




「他部門とのコミュニケーションが重要です。技術そのものを説明できることより、それを使って業務をどう改善できるのかを各部門にわかるような言葉で伝えなければならない。各部門のニーズを引き出す力、つまりコンサルティング能力も試されます。

　ITは企業変革の手段です。ただ、あくまで手段であり、実際に利用する側のニーズとマッチさせることが大切なのです。私はいろんな人と話をしながらニーズを探り、そこにうまくシステムを当てはめるように考えています。一部の声の大きい人の言うことだけを聞いてシステムを構築した結果、うまくいかなかった例も知っています。」

　こうしたスキルを育てるために、同社はOJTを中心とした教育を実施しているが、社内環境や経営に関する知識が中心で限界もある。現状では、アナリストや上級SEといったコンサルティング能力の高い人材や、プロジェクトをマネジメントできる人材の教育が不足しており、今後は社外講習の機会も利用しながら体系的に教育していくことも検討中だという。また、現在構築中の経営管理システム、セキュリティや内部統制の課題などの観点から、これからはグループ全体でのIT活用を企画できる人材も重要となる。

　情報を扱うトップの人間に求められる条件については、「深く穴を掘ろうと思うなら、広く掘らなければならない」と林氏。

「ひとつのことを極めようとする場合、その周辺にも好奇心をもたなければ深く掘り下げることは難しいのです。IT以外のいろんなことに興味をもつことが大事です。仕事上、IT関連の情報は自然に入ってきますから、それ以外の情報を意識して取りにいかなくてはなりません。」

　あらゆる視点でモノをとらえられる人間でなければ、どんなに先進的なITを以てしても、企業を変える力にはなり得ないだろう。


■データ
神戸製鋼所
代表者名　代表取締役社長 犬伏泰夫
設立年月日 1905年9月1日
資本金 2,181億円（2005年3月31日現在）
売上高　連結1兆4,437億円、単体8,997億円（2004年度）
本社所在地 〒651-8585　兵庫県神戸市中央区脇浜町2丁目10-26（神鋼ビル）
従業員総数 連結27,067名、単体8,425名（2005年3月31日現在）
電話番号 078-261-5111
ホームページ　http://www.kobelco.co.jp/

■事業内容：
・鉄鋼関連事業、電力卸供給事業、アルミ･銅関連事業、機械関連事業、建設機械関連事業、不動産関連事業、各種サービス事業。

林氏のインタビューは、早稲田大学 小尾教授監修の書籍『日本の情報システムリーダー50人 ビジネス戦略とIT活用の実例』（ソフトバンク クリエイティブ）に掲載されています。お求めはこちらから。