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中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が閉幕し、習近平政権の3期目が本格始動した。習氏は、これまでの政権運営とは異なり、経済政策の方向性を大きく転換させる可能性が高く、世界経済の潮流も変わると予想される。貿易で中国に依存する日本は、今後、どのように中国と付き合うのか判断を迫られることになるだろう。
習氏と対立してきた李克強氏が完全引退した意味
全人代は2023年3月10日、全体会議を開き、習近平国家主席の3選を決めた。昨年10月に共産党大会が開催され、習氏は異例の3期続投となったが、全人代で国家主席に就任したことで、新体制が本格始動することになる。
今回の全人代では、前首相の李克強氏が完全引退となった。李克強氏と習近平氏は政権運営をめぐって、かねてから対立が続いてきた間柄である。李氏は、中国経済の改革やグローバル市場への参画について積極的な立場とされていたが、習氏は保守的であり意見が衝突してきた。だが両者の対立は思わぬところで決着を見ることになる。
習氏が国内の権力基盤を固めたという内政的な要因が大きいが、米国の対中戦略の変化とロシアによるウクライナ侵攻という外的要因も大きく影響した。
オバマ政権の時代までの米国は、中国を交渉相手と見なしており、中国をグローバル市場に参画させることで、西側陣営に取り込む戦略を描いていた。だがトランプ政権以降、米国は中国を敵視する戦略に切り替え、米中は事実上の貿易戦争状態に突入している。
以前の中国は、米国を最大の輸出先としており、中国経済は米国経済のおかげで成長を続けることができた。最大の顧客を失った中国は、望むと望まざるとにかかわらず、内需主導型経済に転換せざるを得なくなり、米国と中国は互いに分断化の方向に向かって歩み始めている。
加えてロシアがウクライナに侵攻したことから、中露が軍事的にも接近することになり、欧州や米国との距離はますます遠いものとなった。こうした状況下において、李氏が描いていたグローバル経済へ緩やかな参画というシナリオは描きにくく、内向きで全体主義的な経済運営を目指していた習氏の路線がほぼ確定的となった。
米国と中国の分断が進んでいる
李氏は今回の全人代で完全引退となるが、会場では習氏とは目線を合わせず、両者の確執が大きいことを印象付けた。習氏は政治局常務委員の大半を自派のメンバーで固めており、独裁体制を構築しつつある。こうした状況下において、中国経済は今後どのような方向に進んでいくのだろうか。
先ほど説明したように、米国と中国は分断化が進んでおり、もはやこの動きは不可逆的と判断せざるを得ない。貿易の分野で分断が生じれば、技術の面でも分断が生じることになり、近い将来、中国企業が開発した技術と、米国企業が開発した技術は互いに互換性がなくなると予想される。
両国の輸出入も大きく変わるだろう。
これまで米国は安価な工業製品の多くを中国からの輸入に頼ると同時に、最先端半導体などハイテク製品を中国に輸出してきた。だがバイデン政権は昨年10月、中国に対する本格的な輸出規制をスタートしており、米国企業は雪崩を打って中国市場から撤退している。
一方、米国という巨大な輸出先を失った中国企業は、国内向けに事業を転換するか、もしくは第三国を経由した間接輸出に切り替えざるを得なくなった。実際、米中貿易戦争の勃発以降、米国は東南アジアやメキシコからの輸入を増やしている。
中国企業は東南アジアに現地法人を設立。これらの現地法人が米国に輸出するという形で、事実上の迂回輸出を行っている可能性が高い。中国企業はメキシコに対しても多額の先行投資を行っており、中国資本の企業がメキシコから米国に安価な工業製品を輸出するという流れが見て取れる。
一連の動きは輸出を現地法人経由に切り替えただけに見えるが、そうではない。製造や輸出の経路が変化すると、その国の産業構造も大きく変わることは90年代以降の日本を見れば一目瞭然だからである。
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