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- 2023/03/11 掲載
TVerの視聴者が爆増、「silent効果」だけじゃないユーザーの変化とは
稲田豊史のコンテンツビジネス疑問氷解
TVが“つけっぱなし”から“わざわざ見る”に変わった
TVerは2022年7月に累計アプリダウンロード数が5000万を突破し、同年10~12月期放映のドラマ『silent』(フジTV系)は、配信後1週間での単話再生数が次々と最高記録を更新して話題となった。2023年1月における月間ユニークユーザー数は2700万MUB。これは過去最高記録である。TVerの好調を分析する前に、長らく日本の一般家庭では、TVが「何となくつけっぱなし」という視聴習慣があったことを認識しておく必要がある──とするのは大手広告代理店・A氏だ。
「朝起きて、あるいは帰宅後に、食事中に、特に見たい番組がなくとも、習慣として『とりあえずTVをつける』という人は長らく多かったと思います。番組側もそれを意識し、画面を凝視していなくても音だけで情報が伝わるように作っていましたし、特にCMは画面を見なくても成立するように工夫を凝らされてきました。TVが空気のように、生活の中に入り込んでいたため、多くの日本人はTVを好きとか嫌いとかを考えたことのない人生をずっと送ってきたんです」(A氏)
ところが、インターネットとスマホの登場がその習慣を少しずつ崩していった。
「特に若年層は、朝起きて『何となくつける』のはTVではなくスマホになりました。目覚めたらとりあえずスマホでTwitterを開く。トレンドをチェックする。タイムラインを一瞥して、話題になっているニュースを短時間でさらう」(A氏)
今までTVでできていたことが、スマホで全部できるようになった。これは若年層に限らない。
「一定数の人が、別に1日中TVつけてる必要ないよね? という事実に気づいてしまいました。それにより、TVというものの役割が、“何となくつけっぱなし”から“わざわざ見る”に変わったんです」(A氏)
その“わざわざ見る”を最も実践しているのが、若者層というわけだ。
Z世代は「TV番組は好きだが、漠然とは見ていない」
ここ十数年来、日本では事あるごとに「若者のTV離れ」が言われてきた。「若者はYouTubeのほうが好きで、TVには興味がない」「TVで情報発信しても若者には届かない」など。しかしA氏によれば、それは必ずしも正しくない。「調査で10代から20代の若者たちにTVは好きですか? と聞くと、むしろ上の世代よりも『大好き』と答える率が高いんですよ。もちろんTVを一切見ない若者もいるにはいますが、私の体感では7、8割の若者が『TV番組が好き』です。ただ、年長世代のようにつけっぱなしにはしていません。漠然と見ているわけではなく、必要な番組だけを選んで見ています」(A氏)
彼らはどういう基準で番組を選ぶのか。
「自分が好きなタレントや俳優が出演している番組は当然として、世間や友達の間で話題になっている評判のドラマなどは、“絶対に面白いはず”という確信をもって能動的に見ます」(A氏)
その能動的選択を無料で叶えてくれるのがTVerというわけだ。つまり彼らは「TV放送は見ないがTVerは見る」。さらにA氏によれば、彼らはリアルタイム視聴にそれほどこだわりがない。
「若い人でTV好きな人たちは、TV番組の視聴体験が好きなのであって、“今、放送しているやつ”が見たいわけではありません。その意味で、時間帯を問わず好きな番組だけをつまみ食いできるという環境を整えてくれたのがTVerでした。TVerを無料の動画配信サービスのように使っているわけです」(A氏)
若者にTVerが好まれる理由のひとつに、「友達におすすめしやすい」がある。
「友人とSNSでコミュニケーションする際、有料の動画配信サービスだと、『XXXX』というドラマが面白いんだけど、Hulu入ってる? などといちいち聞かなければなりませんが、無料のTVerなら、送られてきたリンクをスマホ上でタップすればそのまま見られます」(A氏)
また、住んでいる地域で放送していなかった番組がTverで見られるようになったというメリットも、利用者の拡大に貢献した。
「関東でも関西のお笑い番組を見られたりするので、お笑いファンは大喜びです。あとはアイドルファンですね。居住地域では放送していないお目当てのアイドルが出演している番組を見られるメリットは、TVerならでは。漠然とは見ない、見たいものをわざわざ見る、という行動の表れです」(A氏) 【次ページ】TVerがブレイクさせた『ラヴィット!』
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