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- 2023/03/09 掲載
家庭用棚搬送ロボ「カチャカ」や共通規格「Matter」に見るスマートホーム未来像
PFRobotics、スマートファーニチャー「カチャカ」を発表
創業10年以内、企業価値評価額が10億ドル以上の未上場スタートアップのことをユニコーン企業という。日本ではユニコーンが少ないと言われている中、その1つであるPreferred Networksの子会社Preferred Robotics(プリファードロボティクス、以下PFRobotics、)が2023年2月1日、独自に開発した家庭用ロボットを発表・発売した。スマートファニチャープラットフォーム「カチャカ(Kachaka)」だ。本連載などで物流ロボットの記事を読んだり実物を見たことがある人ならば、すぐにピンと来るだろう。「カチャカ」は一言でいうと家庭用の棚搬送ロボットである。専用のキャスター付き棚の下に入り込んで、事前に作成したマップに従って、障害物を回避しながら移動する。5月に発売予定で、公式サイトで現在予約を受け付けている。搬送するロボット本体に加えて専用棚と月額使用料が必要で、最低でも257,800円+月額980円となる。
移動の指示は音声のほか、スマホアプリからも可能だ。PFRoboticsでは、ダイニングでの配膳・下膳のほか、積読本を持ってこさせる、洗濯物を脱衣場から干し場まで運ぶ、宅配される食品類をキッチンまで運ぶといった用途を提案している。
タイマーで起動することもできるので、服薬のリマインドや運動習慣作りなどにも使えるとしている。PFRobotics CEOの礒部氏は「帰宅したら身につけていたものを全部『カチャカ』の棚に載せることで忘れ物を防げる」と語っていた。
家庭用棚搬送ロボットのキラーアプリケーションは何?
だが、このロボットを家庭で使うハードルは高い。コストもさることながら、そもそもワゴン収納や可動棚を使っていた家でも、それを長距離移動させることは、まず考えていないだろう。必要なものは必要な場所に置いておくのが普通だ。空間に余裕のある広い家ならなおさらである。ロボット移動棚を積極的に活用するのであれば、家全体のあり方をある程度見直す必要がある。もしかすると、それが彼らの一番の狙いなのかもしれないが。
だが、単に洗濯物を運んだりするだけであれば、「今すぐ家で使いたい」と思えるロボットとは言い難い。もっとも、家庭内は環境以前に状況が多種多様だ。小さい子供がいると、色々な使い方はできるようだ。たとえば子供の面倒を見ながら、物を運ぶ作業はロボットに任せたりできる。また、カチャカのデザインを手掛けた鈴木元氏も、ロボットを相棒感覚で捉えることで「子供たちが積極的に片付けしてくれるようになった」と語っていた。なるほど、そういう効果はあるのだろう。
しかし少なくとも、まだユーザーの心にズバンと刺さる、いわゆるキラーアプリケーションを提案できているとは言えないように見える。筆者の自宅もロボット運用には比較的向いているのだが、「なるほど、これなら使える」と思える用途はまだ見かけていないし、自分でも発想できていない。
カチャカはスモールビジネスでは可能性がある?
一方、スモールビジネスではアイデア次第では使えそうにも思える。「カチャカ」は棚を持ってくるだけではなく、棚を置いていくこともできる。PFRoboticsの近藤氏によれば、「カチャカ」が扱える棚数や、地図内の搬送ポイントの数には制限がない。つまり一台のロボットが複数の棚をいくらでも、複数の用途で扱えるのだ。もともとワゴン棚を使っていることが多い業界・店舗や、あるいは病室のような、動けない人たちのケアを行う用途ならば普通に使えるだろう。また、ショールームでのおもてなし用途なども面白そうだ。
PFRoboticsの社内では「動くゴミ箱」や「動くお菓子棚」として使われているそうだ。ゴミ箱をブラウザから呼べるのである。普通は固定されているゴミ箱やお菓子の棚自体が動けるのであれば、そこから遠い人、近い人の差はなくなる。
そう、これもデモビデオを見ると逆に勘違いしそうなのだが、「カチャカ」は音声だけではなく、アプリで操作ができる。作業中にその場から動かず、画面上で、物理的に離れた場所にある何かを持ってきたり、片付けたりできるのは、かなり面白そうだ。一度使い始めると、意外に、とても便利に思うようになるかもしれないという感覚はある。
未来の暮らし方のかたちはどうなるのか
「カチャカ」が動き、メリットを享受できる家庭環境を維持できる層は、おそらくそれなりの年収がある人たちだろうと推測できる。ターゲットも当然、その辺りに設定されているだろう。そうなると、かなりラグジュアリー寄りの用途のほうが合うのかもしれない。たとえば家具やオーディオに凝っているような層だ。実際、カチャカはかなりデザインに凝ったものとなっている。そのため専用棚の価格も高い。
あるいはガジェットにも興味がある層となると、たとえば、eスポーツプレーヤーなどなら使いこなすかもしれない。マウスやキーボード、椅子にも気を遣う人たちだし、彼らなら面白い使い方を編み出してくれる可能性もある。
筆者自身はあまり面白い使い方を思いつくことはできないが、何か、可能性はあるのかもしれないなと思うのだ。「コロンブスの卵」のような、発想された後では「なんだそう使えばよかったのか」と誰もが思ってしまうような使い方だ。
発表後の反応を見ていると、もしかすると特にロボット関係者には面白い発想は無理かもしれないとも感じる。だが、ここはひとつ頭を柔らかくして、これまでにない新しい家庭用ロボットの可能性を考えてみたいと思っている。それはおそらく、新しい家庭、未来の暮らしのかたちを考えることでもある。
将来の家ではロボットが宅配便受取係になる可能性も
この「カチャカ」だが、初公開は、実は日本ではなかった。米国・ラスベガスで2023年1月5日~1月8日に行われた技術見本市「CES2023」での旭化成ホームズのブースで動いていたことが来場者たちからレポートされており、旭化成ホームズのウェブサイトでも「Smart home robotics solution for secure in-home delivery」として紹介されている。PFRoboticsは2022年3月18日に旭化成ホームズから第三者割当増資のかたちで3億円の資金調達を行っている。資本提携した両社が何をやっているのか筆者も興味を持っていたが、その一端が「CES2023」で公開された。
なぜかあまり報道されていなかったが、旭化成ホームズから発表されたリリースを見ると、同社がすでに戸建住宅「ヘーベルハウス」に実装済みの、IoTを活用した宅配物の受け取り・発送システム「スマートクローク・ゲートウェイ」と、PRRobotcsの「カチャカ」を組み合わせることで、宅配物をロボットが受け取り、自動で居住空間に運ぶ未来の暮らしを提案するというものだったことが分かる。
不在時でも荷物を受け取れるようにするヘーベルハウスの「スマートクローク・ゲートウェイ」とはどんなものなのか。説明によれば、こうだ。まず、ネットショップに注文したときの配送予定メールを独自アプリに転送すると、時限付きパスワードが設定され、配達員に通知される。配達員はスマートクロークの外部ドアのロックにその解錠キーを入力して、クロークに入室する。
「スマートクローク・ゲートウェイ」は旭化成ホームズのインターネットサービス「ヘーベル光」のオプションとなっている。定期的に食品を届けてもらうサービスを使っている人が玄関先に置いている通い箱も建物内におけるのですっきりするし、置き配であっても外部にはそれは分からない。また在宅していても非対面で荷物を受け取ることができる。
「CES2023」では、さらに将来の家を想定して一歩進んだ使い方として、「スマートクローク・ゲートウェイ」と「カチャカ」を組み合わせ、ロボットが搬送する棚に荷物を載せてもらい、必要であれば家の中まで運んでもらえるというアプリケーションが提案されていたようだ。 【次ページ】CESで注目を集めた「Matter」とは
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