- 2005/08/25 掲載
会計業務を情報化する【第1回/全2回】
意思決定の迅速化と信頼性を向上させる会計ソフト導入の提案

text by Yuji Oda
中央青山監査法人 監査二部 ディレクター
尾田友志氏
会計は意思決定の基本
「何をしたらよいか分からない。」世の経営者は、時折このセリフを口にする。「どうしたらよいのか分からない。」「どうすればわが社は儲かるのか?」--従業員には聞かせたくないセリフではあるが、これがおおかたの経営者の本音だろう。現代の経営者は高度経済成長を経験しており、しかもバブル経済時には何をやってもたいがいは利益が出ていた。モノが溢れ、画期的な商品のない現在、どうすれば自社の売上・利益が上がるか分からないのは当然のことといえる。しかも、同業者による値引きは横行しており、働いてもちっとも儲からないのである。
ところが2003年3月期の決算を見てみると、キヤノンを始めとして、過去最高益を出している企業が多数出ている。決してモノが売れていないわけではないのだ。「あれは大企業だからだ」というのは理由にならない。中堅中小企業でも、増収増益の企業は山ほどある。
それではどうしたらよいのだろうか?まず、儲けたいのなら、昨年と比べて売上の上がっている商品に着目してみてはどうだろうか。利幅のとれている商品の拡販を試みてはいかがだろうか。つまり、自社の利益を上げたいのなら、会計情報を見て、利益の出ている商品を積極的に売ることから、目の前の壁を打破するヒントが得られるはずだ。自社の会計情報こそが、あなたの会社の進むべき道を示しているといえよう。
管理サイクルはASPEC
PDC(Plan-Do-Check)は、もう古い。これは高度経済成長時代の産物である。「こうすれば売れる」という公式が存在しない今、少しでも利のある方向へ企業をカジ取りする必要がある。現代の管理サイクルはASPECである(図1)。
まずは分析(Analysis)をし、自社の強みと弱みをきっちりと把握をする。そして、自社の強みを伸ばし、弱みを補強するような方針(Strategy)を立てる。その方針を実行するための計画(Plan)を立て、実行(Execute)し、結果を管理(Control)する。
図1

分析の基本データは会計情報
分析の基本はマーケットリサーチデータではない。自社の会計情報だ。マーケットリサーチデータは、市場環境を第三者の立場で調査・分析したものであり、自社の強みと弱みは考慮されていない。ところが、自社の会計情報は自社の強みの部分は売上・利益ともに好調で、反対に弱み部分は赤字であったり、目標に至っていないと表示される。会計情報は企業活動の状況と結果を金額で表したものである。したがって、結果である会計情報を分析していけば、営業活動の評価も可能である。
会計業務手作業の功罪
「遅い・まずい・高い」というのが、手作業で会計業務をこなしている場合の功罪である。
●遅い
会計情報を経営管理に役立てる典型的なものが、月次決算および月次業績検討だろう。
会計業務を手作業で行っていると、作業量が非常に多い。日々の仕訳を切った後で、得意先元帳や仕入先元帳に転記して、総勘定元帳にも転記しなければならない。当然、経理部員の残業は多くなる。社員を自分の子供のように感じている社長も多いが、彼ら彼女らの婚期が遅れているのが自分の責任であることを気づくべきだろう。
資金を貸している金融機関の立場から見ると、月次決算が遅いということは、その企業の管理水準が低いということを意味する。充分な管理ができない企業に資金を供与しても、効果的に運用できているとは考えにくく、資金枠が小さくなったり、貸付金利が高くなったりする。
●まずい
月次決算が遅れれば、月次業績検討のタイミングも遅くなる。月次業績検討会議が毎月20日前後という企業がある。月中過ぎて前月の業績を検討しても、マーケットの動きが早く、対処すべきタイミングを逸してしまう。「業績が上がらない」「施策が後手後手にまわっている」原因は、ここにある。
もうひとつ、月次業績検討のタイミングの遅さが、悪い業績に結びつく理由を挙げてみよう。4月に新しい年度が開始する企業の場合、4月20日に3月の業績結果が上がってくる。しかし、どんなに話し合ったところで、所詮は前期のデータである。今期の業績には何の影響もない。そして、5月、6月、7月…翌年3月20日に2月の業績結果が検討され、ここでもうひとふんばりしなければならないと気がついても、今期はもう10日しか残されていない。5月から2月まで指折り数えてみると、『年間12ヶ月の予算を、10回の検討で乗り越えようとしている』ことが分かるだろう。
反対に毎月3日に前月業績を検討できる企業は、5月から3月までの11回の検討会議を活かすことができる。そして、3月3日に最後のふんばりをしなければならないと分かったとき、あと20日以上も挽回のチャンスが残されているのだ。どちらが有利かは言うまでもないだろう。
●高い
月次決算業務や社内管理に関わる時間は、付加価値のある業務ではない。付加価値があるとは、「お客様がその業務を認め、お金を払ってくれる」ものである。付加価値の低い業務に時間が掛かるということは、それだけコストが掛かっており、売上向上に役立っていないことを意味する。社員の残業代、帳票類の紙類、コピー代…。数えあげれば、きりがない。すべてコストアップ要因である。これを放置しながら、「コストを削減せよ」と指示するのは、本末転倒ではないだろうか。
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