0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
AIの導入が着実に進んでいる。日本アイ・ビー・エムが2022年7月に公表した「世界のAI導入状況2022年」によると、AI導入率は2021年に比べて13%増えて35%に、PwCコンサルティングの調査では、AIを導入した日本企業は21年より10ポイント増えて過半数を超えた。IBMとPwCの調査から、AI本格導入に向けて必要な「AIガバナンス」の最新状況と課題を探る。
進む日本企業のAI導入、現在は本格化に向けた転換期
PwCコンサルティングの「2022年AI予測調査(日本版)」によると、日本企業のAI導入比率は、2020年の27%から2021年に43%、22年に53%と年々高まっている。
ただし、急増した理由の1つは「隣の企業が導入したので、当社も導入する」という横並び発想にありそうだ。このため、PoC(実証実験)に満足し、結果や成果を検証しない"やりっぱなし"になっている。調査でも、全社的に広範囲にAIを導入した企業の割合は、2022年は2021年より3ポイント減って13%となっている。
実際、日本アイ・ビー・エムでAI事業を推進するテクノロジー事業本部 データAIオートメーション事業部長の塩塚 英己 氏によると、現在は「本格導入に進むのか」「検証段階に留まるのか」のAI活用の岐路にあるという。
IBMが調査した「世界のAI導入状況2022年」の結果から、本格導入にはクリアすべき課題が3つあるという。
1つ目はデータの整備だ。オンプレミスからクラウドに異なるフォーマットのデータが散在しているためだ。2つ目はAIの信頼性である。これは、AIの判断や予測が差別などにつながらないようにすることだ。また、結果に対する説明も求められる。3つ目は、AI適用範囲の拡大だ。AI人材やAIスキルの不足がAI活用を阻まないようにしなければならない。
「AIのROI」の測定、改善を求められる日本企業
PwCは、日本企業の問題点として、AIの投資効果(ROI)を測ろうとしないことも挙げている。同社の調査によると、投資効果を正確に測定する日本企業は21%と米国企業の3分の1にすぎない。成果を評価しなければ、AIの活用範囲も広げられない。
そこで、PwCコンサルティング パートナー データ&アナリティクス リーダー 藤川 琢哉 氏は、AIのROIを計測、改善のために、「AI運用の内製化」を提案する。AI活用のトライ&エラーを繰り返しながら、AI活用モデルをアップデートしていくためには「運用改善の内製化が最も重要になる」(藤川氏)という。
ここでの運用改善はMLOps(機械学習をビジネスに適用する際の運用・保守)のことを指す。いわば機械学習モデル版のDevOps体制を構築すべしというわけだ。ただし、その人材確保を考えている日本企業はわずか8%だ。
PwCはAIの活用度合いやAIのROIを向上させるため、ほかのテクノロジーの融合も提案する。同社調査では、米国企業より日本企業がAIと他テクノロジーの融合を優先課題の上位に挙げており、融合するテクノロジーは、IoTやロボティックス、AR、ドローンなどになる。IoTデバイスからのデータ収集やドローンからの画像データなどで、学習データの充実化を図れる。
本格的なAI活用に向けて問われる「AIガバナンス」の必要性
PwCは、AI活用の本格化とともににAIガバナンスの必要性も説く。同社調査によると、AIの導入にあたり、社会の規範や制度を遵守し、活動を統制している日本企業は47%にもなる。だが、多くがAIガバナンスを検討するだけで、アクションに移そうとしていないという。
たとえば、AIガバナンスの実施率を見ると、どの項目も日本企業は米国企業に比べて低い。特に「プライバシーを含む関連規制にAIが準拠していることを確認する」や「外部のAIサービスが社内やその他の基準に適合しているかチェックする審査の実施」の低さが際立つ。各国が個人に不利益になるようなAI活用を規制し、罰金を科そうともしている。対応を誤ると、市場から退却を命じられることもあるだろう。
では、「AIガバナンス」により、何に注意を払い、どのような状態を目指せばいいのだろうか。
【次ページ】AI活用に向けて問われる「AIガバナンス」「AI倫理」とは
関連タグ