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アステラス製薬では、2016年から基幹システムのグローバル統合プロジェクトに着手し、2021年に新たな基幹業務プラットフォーム「Apple」を作り上げた。「SAP S/4 HANA」への刷新、「Microsoft Azure」によるシステム基盤のクラウド化、アウトソース業務の見直しなど、さまざまな課題を同時にクリアするためにこの取り組みを率いた情報システム部長の須田真也氏に、いかに「フルクラウド」に舵を切りプロジェクトを完遂したか、情報システム部門としての考え方について話を聞いた。
全社横断的な基幹業務プラットフォーム「Apple」を構築
須田 真也氏(以下、須田氏):これまで「バリューチェーンのあらゆる領域でデータドリブンを目指す」戦略について副社長とともに説明しましたが、これは経営に関しても同じです。私も情報システム部門の立場から「データ駆動型経営」実現に向けて、2016年から基幹システムを刷新し、グローバルで統合するプロジェクトを進めてきました。
それまで日本や米国、ヨーロッパの地域別に存在していた基幹業務システムとしてのSAPを「SAP ECC(ERP Central Component)」から「S/4 HANA」へバージョンアップを図ると同時にグローバルで統合し、さらにそのシステム環境を「Microsoft Azure」のクラウド基盤へ移行するプロジェクトです。いわばグローバル規模で「フルクラウド」を目指したわけです。
グローバルでマスターデータやオペレーションを共通化し、すべてのトランザクションを1カ所に集めることで、データを会社の資産として蓄積できます。そのデータを基に、今まで以上に精度の高い予測を行い、戦略的な意思決定につなげることが狙いでした。
加えて、人事や会計、調達、サプライチェーン・マネジメント(SCM)などのシステムをグローバルで統合したわけですが、その際、業界標準に近づけるためカスタマイズは極力抑えるようにし、業務をアウトソースし効率化を図ることも、このプロジェクトの目的としてありました。
SAPのバージョンアップ、グローバル統合、業界標準適合、アウトソースという4つを同時に1つのプログラムとして進め、しかもそれを日本や米国、ヨーロッパの3極の導入まで完了した製薬会社 は、世界でもまだ例が非常に少ないと聞いています。
この新基幹システムは、社内では「Apple」と呼んでいます。これは何かの略ではなく、「アダムとイブ」からインスピレーションを得て「新しい世界を始める」という意味を込めた呼称です。
前倒しでの「SAP刷新」、経営層を説得できたワケ
須田氏:始まりからお話しすると、我々は2012年にシステム運用体制を地域別の運用からグローバル運用へ再構築しました。
その際、SAP ECCのカスタマイズ状況やアドオンの数を調査したのですが、非常に数が多く、そして年1回、四半期に1回程度しか使われていないアドオンがかなりの数に上りました。私はそれを早くやめたいと思っていたということが前提としてあります。
そして当時から、アステラス製薬がビジネスと組織のグローバル化を進めていくことは間違いなかったので、システム基盤を早くグローバル規模に変えたいと構想しているうちに、コーポレート部門のグローバル統合の要件が出てきた。
そこで、ITと合わせて一気にグローバル化へ舵を切ることになったというのがクラウド移行の理由です。一方、SAP ECCの刷新について経営陣を説得する必要がありました。
【次ページ】老舗大手企業がいち早くクラウド移行できた理由
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