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経産省はこの6月「令和4年版通商白書(通商白書2022)」を発表、食料・エネルギーなどの供給制約・価格高騰、貿易・金融といった領域で、ロシアのウクライナ侵略が世界経済に与える影響が増大している点などをまとめた。本稿では「通商白書2022」の中からウクライナ関連とともに、「グローバルで加速するデジタル変革」「地政学リスクの増大などへの対応」「サステナブルなグローバルバリューチェーン構築」「データ越境」などの論点について解説する。
そもそも通商白書とは何か? 通商白書2022のトピックは
通商白書とは、経済産業省が毎年発表している通商政策についての報告書であり、その発行目的は「国際経済動向や通商に影響する諸外国の政策の分析を通じ、通商政策の形成に貢献し、国民などに対して通商政策を基礎づける考え方や方向性を示す」ためという。法律で作成義務が課せられていない非法定白書であり、閣議に提出される点が特徴である。
2022年7月に公表された通商白書2022では、「ロシアのウクライナ侵略による世界経済への影響のポイント」を軸に各国の対応や、通商政策などが解説されている。
ウクライナ侵略による世界経済への影響
ウクライナ侵略を受け、G7(日本、米国、カナダ、フランス、イギリス、ドイツ、イタリア及びEU)を中心とする先進国は、エネルギー分野を含めた前例のない大規模の経済制裁を実施。ロシアとの経済・政治関係の見直しを急速に進めている。
通商白書2022では、このような状況下で「経済的分断への懸念が高まり、自国中心主義や経済安全保障の重視により多極化が進行する国際経済の構造変化を加速させる可能性」を示している。現在の潮流が国際経済秩序の歴史的な転換点になる可能性があるのだ。
ウクライナ情勢に加え、コロナ禍での世界経済の非対称な回復や急激な財政措置による需給バランスの歪みにより、サプライチェーンが混乱している。こういった影響も受け、燃料価格が上昇し、物流コストが高騰した。
さらに異常気象による食料の不作、脱炭素に向けた資源・エネルギー需要の急激なシフトなどによって肥料や食料も含めた「コモディティ価格」が上昇し、エネルギー安全保障や食料安全保障にも影響を及ぼしている。
世界経済は、ウクライナ情勢に伴う供給制約や資源価格高騰によるインフレ高進などの下方リスクがある。コロナ禍からの正常化へ先行き不透明感が残る。
コロナ後の成長を見据え、サステナビリティの実現を「大きな軸」として、中長期的課題へ取り組みことの重要度が高まっている。デジタル経済やデジタル技術を通じた第四次産業革命の推進、投資促進といった経済の高付加価値化・産業高度化、気候変動問題への対応が求められているのだ。
グローバルで加速する4つのトレンド
ウクライナ情勢やコロナショックを契機に、「デジタル変革」「地政学リスクの増大」「共通価値の重視」「政府の産業政策シフト」という4つのトレンドがグローバルで加速している。
この4つのトレンドは、今後の国際関係や世界経済の動向を左右し、企業経営に大きな不確実性を生み出すとともに、企業の付加価値の源泉に変化をもたらしているともいえる。
「地政学リスク」「共通価値」に関しては、各国政府の国際ルール形成や政策ポジションの違いによってルールのブロック化が発生しており、それを受けた市場のブロック化も進行している。
さらに白書では、「政府の産業政策強化」の動きから、米国や欧州など主要国・地域の特定セクター(航空宇宙、半導体、グリーン関連など)において大規模な市場が形成された点を指摘している。立地国の政策ポジションにより、企業間で「市場を獲得できるチャンス」について格差が生じるかもしれないのだ。
このような状況では企業には、従来のコスト削減・低価格製品提供の重視から、差別化・高付加価値化や効率的なオペレーションに取り組むビジネスモデル・産業構造への変革を積極的に促すことが求められる。各企業ごとに「稼ぐ力」を引き上げることが重要ということだ。
さらに各企業ごとに、「デジタル変革」「地政学リスクの増大」「共通価値の重視」「政府の産業政策シフト」の4つのトレンドを踏まえて、デジタル化による企業変革に挑み、政府が創出する需要を取り込み、経済安全保障・社会的インパクト・共通価値を中核事業における付加価値に転換する、「付加価値創造型のビジネスモデル・産業構造」を実現することが必要だとしている。
サステナブルなグローバルバリューチェーンの構築に向けて
世界各国間で、経済連携協定を通じた関税引下げの動きとあいまって、輸送コストの小さい近隣地域内での中間財貿易を中心に「グローバルバリューチェーン」の展開が進んでおり、アジア域内では複雑な国際生産分業体制が構築されている。
その中で日本は、地政学リスクやパンデミック、自然災害などによる供給制約などの領域で課題が顕在化している。
日本の企業には、輸入依存度が高くサプライチェーン途絶リスクの大きい重要品目について、「国内生産拠点の整備」「海外生産拠点の多元化」という両輪で、サプライチェーンの強靱化が進める必要がある。そのため、企業ではサプライチェーン全体の可視化、問題発生の予防、問題が発生した場合における適時・適切な対応が重要な課題となっている。
政府では、デジタル技術を活用し、欧州で先行するデータ連携を参考に、日本とアジアが一体となった高度なサプライチェーンマネジメントの仕組みを構築し、アジア大のデータ共有基盤構築により価値創造につなげることを検討している。
経済産業省が2022年1月に発表した、アジア各国との経済関係強化のために打ち出した「アジア未来投資イニシアティブ」などが基本施策となる。
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