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- 2022/03/11 掲載
ロシア産原油禁輸に踏み切った米国の勝算は? シェール採掘もすぐにはできない事情
歴史的な水準続く米インフレ、高まる国民の不満
米国では今「#PutinPriceHike」というハッシュタグがホワイトハウス主導で広げられている。昨今の石油価格の高騰はロシアによるウクライナ侵攻が原因で、今後しばらくこの状態が続くことを示唆している。米国の石油小売価格は3月に入り1ガロン4ドルを超えた。これは2008年のリーマンショック時のオイルショック以来という高い水準だ。特にカリフォルニア州では平均のガロン価格が5ドルを超え、ガソリンスタンドによっては6ドル、7ドルを超えるところも出てきた。
そもそも米国のインフレ率は今年に入り7%以上となり、国民からは政府に対する不満の声が湧き上がっている。
これはウクライナ紛争以前から起きており、原因としてはコロナによる世界的な物流の停滞、OPEC(石油輸出国機構)による原油増産拒否などが挙げられていた。さらに米国ではバイデン政権が掲げるグリーン政策により、国内でのシェールガスやオイル採掘への制限がかけられていることも影響している。
このような状況でロシア産原油の禁輸に踏み切ったことで「米国は環境政策を一時的に停止してシェールガス・オイルの増産に踏み切るのではないか」という見方があるが、バイデン政権は「政府はシェールガス・オイル採掘に制限をかけておらず、環境政策が後戻りすることはない。原油高を引き起こしたのはロシアであり、当分は米国民も高い石油価格に耐える必要がある」と語った。
バイデン政権にとって、今ロシア産原油の輸入禁止に踏み切ることには2つのメリットがある。国民の反戦、ウクライナへの同情という世論にただちに反応することで政権への好感度を上げること。さらにすでに起きていたインフレ、石油価格高騰に理由付けができること。これにより政権批判の矛先をずらすことができる。
ロシア産原油禁輸に踏み切れた米国のエネルギー事情
米国は世界一の原油生産国である。しかし国内での需要も高く、一部を輸入に頼らざるを得ないのだが、ロシア産原油は輸入量全体の8%、年間2億4500万バレルである。2014年以降、ロシアからの輸入量は増加の傾向にあったが、メインとなっていたのはOPECおよびカナダ、メキシコだ。こうした意味ではエネルギー需要のおよそ3割をロシアに依存する欧州諸国よりは禁輸に踏み切れる背景があったとも言える。
一方シェールオイルはトランプ政権下の2018~2019年にかけて過去最高の生産量を記録し、一時は1300万バレル/日に迫る勢いだったが、2021年は平均で1110万バレル/日に減少した。
一見するとシェールオイルに反対の立場を取っていたバイデン政権の政策にも見えるが、実際にはコロナの影響で消費が落ち込み、原油卸売価格が50ドル/バレルとなっていたため、採算が取れないと事業撤退した業者が多かったのが主な原因だ。
シェールガス・オイルが批判されるのは、その採掘方法にある。シェール層とは地中2000メートル以上という深い層であり、硬い岩盤に囲まれている。それを効率的に採掘するために、水に化学物質を混入したものを高圧で注入して岩盤層を砕く「フラッキング」という手法が取られる。
これによりシェールガス・オイルが低コストで採掘可能となったが、フラッキングによりガスやオイルが付近の地層に浸出し、土壌汚染を引き起こすと批判が集まっていた。バイデン政権がパイプラインの廃止や新規フラッキングの認可保留などにより、脱化石燃料路線を歩んでいたのは確かだ。
【次ページ】イーロン・マスクも言及、エネルギー不足にどう動くべきか
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