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限界費用ゼロとは、デジタル技術の発達などによってモノやサービスを生み出すコスト(=限界費用)がゼロ、あるいは限りなくゼロに近づくということを指します。郵便のコストがeメールによって、送る人のコストが限りなくゼロに近づいたことなのがその好例でしょう。ジェレミー・リフキン氏が2015年に刊行した『限界費用ゼロ社会』は世界中に大きなインパクトをもたらしましたが、オードリー・タン氏もこの重要性について理解すべきだと主張します。『
まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう』より一部抜粋して紹介します。
語り:オードリー・タン(Audrey Tang 唐鳳)、執筆:近藤弥生子(こんどう・やえこ)
語り:オードリー・タン(Audrey Tang 唐鳳)、執筆:近藤弥生子(こんどう・やえこ)
オードリー・タン
台湾のデジタル担当政務委員(閣僚)、現役プログラマー。1981年4月18日台湾台北市生まれ。15歳で中学校を中退し、スタートアップ企業を設立。19歳の時にはシリコンバレーでソフトウエア会社を起業。2005年、トランスジェンダーであることを公表(現在は「無性別」)。アップルやBenQなどのコンサルタントに就任したのち、2016年10月より、蔡英文政権でデジタル担当の政務委員(無任所閣僚)として、35歳の史上最年少で行政院(内閣)に入閣。2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムや「ショートメッセージ実聯制」を構築、台湾の防疫対策に大きく貢献。デジタル民主主義の象徴として、世界にその存在を知られる。
近藤弥生子
台湾在住の編集・ノンフィクションライター。1980年福岡生まれ・茨城育ち。東京の出版社で雑誌やウェブ媒体の編集に携わったのち、2011年に台湾へ移住。現地のデジタルマーケティング企業で約6年間、日系企業の台湾進出をサポートする。2019年に日本語・繁体字中国語でのコンテンツ制作を行う草月藤編集有限公司を設立。雑誌『&Premium』『Pen』等で台湾について連載。オードリー氏への取材やコーディネートを多数手がけ、著書数冊を上梓。オフィシャルサイト「心跳台湾」。
〈限界費用〉がゼロに近づいていく
インターネットが普及した今、私たちが世界中で連帯して未来を創っていくために追い風となったのが〈限界費用(Marginal Cost、モノやサービスの生産量を1単位増やした時のコストの増加分)〉の減少です。
たとえば今、何かの概念を人にシェアしたいと思った時、その言葉や画像をシェアするのにコストはほぼかかりませんよね。あなたが私にリンクを送ろうとした時、あなたが接続しているインターネット回線と、私が接続しているインターネット回線に負担がかかり、どちらかがオプション費用を支払わなければならないといったこともありません。この状態のことを「〈限界費用〉がゼロである」といいます。1回作ったら、それをどれだけの人にシェアしたとしても、誰も損失しないという状態です。
現代では
さまざまな物事の〈限界費用〉が次第にゼロになりつつあります。インターネットが誕生したばかりの頃は、本当に短いテキストメッセージやメールだけだったのが、現在は画像や動画までもが〈限界費用〉ゼロの状態でシェアし合えるようになりました。お金の心配をしなくてよいということは極端な話、たとえまったくお金を持っていない人であっても、インターネット回線とツールさえあれば、何かを作ることも、社会生活を送ることもできるということです。
けれどまだ別のこと、たとえば私がここにあるオレンジジュースを飲んだら、他の人が飲む分がなくなってしまうということも起こります。オレンジジュースは、1杯作るごとにオレンジの果汁などのコストがかかります。つまり〈限界費用〉が発生しますし、それがインターネットの普及によって次第にゼロに近づいていくことはないですから、飲みたい人はお金を出して買わなければなりません。そうでなければ、〈限界費用〉がゼロの水を飲もうということになります。台湾では至るところに無料で利用できる給水機がありますからね。
つまりは
テクノロジーの発展に伴って社会も発展し、もともとは存在していた〈限界費用〉がゼロに近づいていくということです。そして〈限界費用〉がゼロのものが増えれば増えるほど、私たちはお金の心配をしなくてもよいようになります。
【次ページ】限界費用がゼロなら、ごく自然にシェアし合う
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