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日本の経済を支えるものづくりの現場において、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が日々叫ばれている。オートバイやマリン製品の製造販売で知られるヤマハ発動機でも2018年にデジタル戦略部を新設し、データやAI、IoTの活用に積極的に取り組んできた。国内製造業の中でもその取り組みは高く評価され、2020年には「DX銘柄」にも選定されている。同社のDXの旗手であるフェローの平野 浩介氏、IT本部デジタル戦略部 主査の大西 圭一氏が登壇し、DX戦略の方針を明かした。
※本記事は、2020年12月に開催されたDataRobot主催のオンラインイベント「AI Experience Japan」における基調講演「ものづくりAI 基調講演: ヤマハ発動機のAI学習と未知への推論」の内容を再構成したものです。
DXは原動力、スタートアップにはない武器を活用する
1955年の創業以来、ものづくりやサービスを通じて多様な価値の創造を追求してきたヤマハ発動機グループ。「世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供する」ことを企業目的とし、「感動創造企業」になることを目指している。現在は「Revs your Heart」(「Rev」はエンジン回転を上げる、わくわくさせるの意)をスローガンに掲げ、イノベーションへの情熱を胸に顧客の期待を超える感動の創造に挑戦している。
これまで同グループは、二輪事業やマリン事業、ロボティクス、金融サービスなどの事業の多角化を進めてきた。また、現在は海外事業の売り上げが90%を占めるなどグローバル展開を拡大している。2017年ごろから数年間、関連子会社約130社を含めた同グループの連結総売り上げは1兆6,600円から1兆6,700円前後の横ばいで推移している。
ヤマハ発動機のフェローである平野 浩介氏は「GAFAに代表されるIT企業が圧倒的な売り上げの伸びを示している中、製造業である当社も負けないように成長していきたい」と語り、その原動力としてデジタル変革(DX)を位置付けていると説明する。
また、平野氏は「人や予算をつぎ込んでDX推進部を創設しても、1年ほど経って社長から『我が社のDXは進んだのか』と他人事のように聞かれるという話をよく聞く」と指摘。「DXを推進するためには、経営層自らが動かないと難しい」との認識を示した。その上で、自社での取り組みとして「まず経営陣とともに経営・ビジネスの在り方について十分に話し合い、目的のすり合わせを行った」と明かした。
「AIを含めたデジタル技術が、企業の経営課題や経営戦略に対するインパクトを共有することが重要。言い換えれば、新しいビジネスの成功には、デジタル、ITの力がないと無理だろう」(平野氏)
さらに自社グループでDXを推進するためには「スタートアップにはない自社の資産を有効活用することがポイントになる」と語り、特に「グローバルで品質の高いものを量産してきた」というサプライチェーンなどの自社が持つ資産を活用することが大切だと説明した。
DX推進のポリシーは「ビジネスファースト」
ヤマハ発動機では、経営会議メンバー全員によるオフサイト合宿などによって「10年先を見据えた競争力のある経営システムとは何か」という議論を重ねてきた。その中では「予知型経営」「課題解決型」などに加えて、平野氏は「より戦略的な思考を持って経営すべきという意見が出た」と振り返る。
デジタル活用という点では「今を強くする」という点に着目。既存事業をさらに強化する策として、デジタルマーケティング活動によるライフタイムバリュー(生涯顧客価値)の向上などにも取り組むことで合意したという。
さらに同グループでは「未来を創ること」にもデジタル技術の活用を掲げている。平野氏は「自動車メーカーも含め、これまでの日本の製造業の多くが、お客さまとダイレクトにつながることはなかった」と指摘。自社の世界中で5000万人以上のお客さまに愛用されてきた実績を活用し、お客さまと直接つながることで新しいサービスの提供、新しいビジネスの共創も可能になる」と説明した。
その上で、自身のDX推進のポリシーとして「ビジネスファースト、ビジネスありき」であることを掲げ、そのためにデジタル技術をツールとして活用するとの見解を示した。
ヤマハ発動機は現在、2030年に向けた成長戦略として「ART for Human Possibilities」を掲げている。ARTとは「ロボティクス活用(Advancing Robotics)」「社会課題にヤマハらしく取り組む(Rethinking Solution)」「モビリティで変革をもたらす(Transforming Mobility)」の頭文字を取ったものだ。
平野氏は、長期ビジョンから逆算されるさまざまなパラダイムシフトや環境の変化にも対応できるデジタル・IT基盤を構築することの重要性を強調。同グループでは「DXのフェーズ1」として、データの統合とAI活用に取り組んでいると説明した。
DXの第一歩は、データ統合とAI活用の基盤構築
同グループのDXのフェーズ1である「データの統合とAI活用」とは、具体的にどのような取り組みなのか。平野氏は、グループ連結対象になる会社すべてのデータをグローバルで統合するデータベース基盤の構築を挙げた。
これまで同グループでは、個社が独自の経営基盤システムやデータベースを保有していた結果、異なるデータ粒度によってトップラインが伸びないという課題があったという。そこでデータコードやマスターを整備して一元管理することに取り組んでいる。
平野氏は「ルールやものさし・制度を合わせた統合型基盤によって、最終的にはそのデータを基に予知型経営を可能にし、迅速かつ柔軟な意思決定を実現したい。また、各部門や現場でもデータを活用しながらデータドリブンなアクションを実施できる体制になることを見据えている」と語る。
同社では、DXのフェーズ2としてSNSやコネクテッドビークル、スマートファクトリーなどのデジタル領域におけるデータ活用基盤の構築を目指している。
【次ページ】AI/データ利活用における3つの基本方針と、ツール選定ポイント
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