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  • 2020/09/29 掲載

“全員が病者”と言えるこの時代に。岸見一郎氏が語る「次世代に何を教えるべきか」

連載:2030年への挑戦

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新型コロナウイルスの流行は止まるところを知らず、社会や日常生活を一変させた。先の見えないこの時代において、しかし『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(ダイヤモンド社刊)著者で哲学者の岸見一郎氏は「教育を見直すチャンス」でもある、と語る。果たしてアドラー心理学の見地から、教育の未来についてどう考えているのか、そして今我々にできることは何か、岸見氏が語る。
執筆:園田もなか
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アドラーは未来の人類も共同体だと考える

──2015年に国連は「SDGs(持続可能な開発目標)」を発表しましたが、岸見先生はこの先行き不透明な現代においてSGDsなど未来を見据えた取り組みについてどう考えていますか。

岸見氏:私は「今、ここ」の重要性をいつも語っているので、未来への関心がないと誤解されることはありますが、私自身はこうした未来への取り組みにかなり高い関心を持っています。

 もちろん、我々はどうしたって今ここでしか生きられません。先のことをどれだけ思いわずらっても、今できることしかできない。そういう意味ではあまり先のことを考える必要がないと言っているように聞こえてしまうかもしれません。

 ただ、アドラーが共同体をどのように定義しているかを見れば、アドラーが未来に関心を持っていることがわかります。アドラーが考える共同体の範囲は非常に広く、自分が所属している家族、学校、職場、国家、そして人類も超え、生きているものも生きていないものも、すべてを含めた宇宙全体を指している。そして時間軸でいえば、過去、現在、未来すべてを含みます。つまり、未来の人類も我々の共同体としてアドラーは考えているのです。

 そう考えると、いま我々が生きているこの時代さえよければそれでいい、という考えにはなりません。10年後、20年後、100年後、未来永劫にわたる人類のことまで考えて生きていかなければならない。負の遺産を子孫に残すのは決して許されることではないのです。

教育こそが世の中を変える

──SDGsでは特に注目している領域について教えてください。

岸見氏:私が最も重要だと考えるのは、「教育」です。

 そもそも、教育の失敗の結果が今の時代なのではないか、と思うのです。何が良くないかというと、人から言われることを鵜呑みにしてしまう人があまりに多いことです。

 たとえば、SNSが盛んなこの時代に、特に情報ソースの検証もしないままリツイートをしてしまう。職場で言えば、カリスマ性のあるリーダーの言葉にみんな何も考えずにそのまま従ってしまう。

 そうならず、若い人たちが自分の力で考えて、これは果たして本当なのだろうかと検証する力をつけていくこと。それこそが教育だと思っています。

 アドラーは、教育こそがこの世の中を変えると考えていました。彼は社会民主主義者だったので、かつては政治の変革を目指していました。しかし、ロシア革命の現実を目の当たりにして、政治によってこの世を変えることは無理だということに気づいてしまった。そこで教育でこの世界を変えようと考えるようになったのです。

 教育は手間暇がかかることで、即効性がありません。ですが、だからこそ、時間と手間をかけて大人の人たちが若い人たちへの教育に尽力しなければいけないと考えます。

 特に現代の教師や親の教育において問題だと感じているのは、成功を人生の目標だと考えさせようとしていることです。「成功をすれば幸せになる」という価値観に囚われている教師や親があまりに多すぎます。

 こういったビジネスの媒体で語っていいかわかりませんが、我々は働くために生きているのではなくて、幸福であるために生きているわけです。自分がこの仕事をするときに本当に幸せを感じることができているか、と考えが及ぶように援助していくことが親や教師の役目でしょう。

 しかし、今でも一流大学に入って一流企業に入ったら幸福だと思っている親や教師がとても多い。もうそういう時代ではない、ということに教育者は気づいてほしいですね。成功することだけが人生唯一の目標ではない、と教えないといけません。

【次ページ】全員が病者と言ってもおかしくない時代に。生きることをどう教えるべきか
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