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  • 2020/08/10 掲載

日本語版絶版の名著『戦略販売』で示された、法人セールス6つの極意

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コロナ・ショックを受けて、法人セールスの手段はオフラインからオンラインへと、大きく変わった。しかし手段は変わっても、関係者を押さえた上で自社の商品を買ってもらうという基本は変わらない。1985年に出版されたR.B.ミラー著『戦略販売』は、その法人セールスの本質を著した書だ。今では日本語版が絶版になった同書の要点を、マーケティング戦略コンサルタントの永井 孝尚氏が解説した。
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「1985年出版の本だが、現代の法人セールスの基本が詰まっている」と永井氏は語る。その内容とは

※本記事は『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』を再構成したものです。


法人セールスには戦略が必要だ

 私たちが普段見かけるセールスは、店頭で消費者に商品を販売する人たちだ。しかし私たちは日頃目にしないが、企業のセールスの多くは法人相手に商品を売っている。セールスの現場では、マネジャーがセールスにこんな指導をすることが少なくない。

「お客さまに体当たりだ。自分を売り込め! オフィスで考えるのは時間のムダだ」

 たしかに顧客と話すことは大事だが、行き当たりばったりでは、成功確率は低い。本書は法人セールスの戦略的で実践的な方法を教えてくれる。1985年出版の本だが、現代の法人セールスの基本が詰まっている。

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『戦略販売』
R.B.ミラー、S.E.ハイマン
※画像をクリックすると購入ページに移動します
ミラーはスタンフォード大卒。1974年にロバート・B・ミラー社を設立し、「戦略販売プログラム」を開発。その後、企業教育や販売コンサルタントとして活躍し、スティーブン・ハイマンとともにミラー・ハイマン社を世界有数のコンサルティング会社に育てた。米国海軍の砲撃将校として朝鮮戦争での従軍経験がある。
 たとえば「セールスじょうご」の考え方は、私が在職していたIBMでも案件管理手法として世界共通に展開していた。本書の日本語版はすでに絶版だが、英語では2007年に新版が出版されている。そこで英語新版の内容も含めて紹介したい。

 わが家のテレビがだいぶ古くなった。たまたま入った家電店で50型テレビが安かった。店員も熱心に勧める。妻にスマホで写真を送り意見を聞くと、すぐ返事が来た。「大きすぎない? 部屋が狭くなるよ」。50型テレビ購入は見送りになった。

 このように買う時に2人以上の同意が必要だと、販売は途端に難しくなる。法人セールスはもっと多くの人が複雑に絡む。だから売るのが難しい。そこで戦略が必要になるのだ。

 戦略販売では、必要な関係者をキッチリ押さえた上で、セールスがいかに主導権を取るかを徹底的に考え、販売の成功確率を上げる。そのために、次の6要素を考える。

要素1:4つのバイヤーを見極める

「取引先の部長は私の先輩で、仁義を大切にする人です。この案件確実に取れます!」

 これではダメ。義理人情に頼るセールスは少なくないが、会社員は異動するものだし、そもそも企業は合理的に考える。顧客を「人物」でなく、「役割」で見ることが必要だ。この役割を持つ人をバイヤー(買い手)という。バイヤーには4種類ある。

(1)エコノミック・バイヤー
 価格が価値に見合うか考え、購買の最終決定をする。判断基準は採算性だ。組織上層部にいることが多い。取引ごとにこの役割の人は変わる。少額ならば課長レベル、大規模投資なら社長の場合もある。

(2)ユーザー・バイヤー
 実際に商品を使う。自分の仕事への影響に関心がある。たとえば工場に自動化ロボットを売る場合、工場長は「生産性が上がるな」「でも工員に新しい手順を覚えさせるのは手間がかかりそうだ」と考える。

(3)テクニカル・バイヤー
 商品が問題ないかを確認する。工場でロボットを売る時、顧客は自社の専門家に「本当に工場で動くか?」を確認させる。

(4)コーチ
 顧客企業を熟知し、あなたの味方として他バイヤーを仲介し、必要な情報を与えてくれる。顧客企業内にいることもあれば第三者の組織や自社内にいることもある。

 最初の段階でこの4つのバイヤーが誰かを見極め、全員から賛同を得ることが必要だ。


要素2:危険信号を察知し、チャンスに変える

 売れない場合、必ず事前に次の危険信号が出ているので見逃さず対策を採るべきだ。

(1)情報が不足している
 誰がバイヤーなのか不明だったり、バイヤーが何を考えているか分からずにセールスをすると、失敗することが多い。

(2)情報が不確実である
 情報を得ても意味が判断できなかったり、憶測で「買ってくれそうだ」と判断するのは危険だ。不確実な情報は、必ず裏を取って確実にする。

(3)バイヤーにコンタクトできない
 4つのバイヤーには必ずコンタクトする。怠ると売れない。「相手は偉い社長だから会えない」という場合、自社の社長と会う機会をつくる。

(4)新任者へ交代した
 前任者の約束をちゃぶ台返ししたりする。すぐコンタクトする。

(5)組織変更した
 組織変更で顧客の役割は変わる。根回しがやり直しになる可能性が高い。

 危険信号はチャンスにもなる。会ってくれなかったスズキ専務が新任のサトウ専務に代われば、自社に好意的なヤマダ工場長の仲介でサトウ専務に会えるかもしれない。「(3)バイヤーにコンタクトできない」「(4)新任者へ交代した」をチャンスに生かした例だ。

要素3:顧客の反応を見極める

 売れるかどうかは顧客の反応次第。反応には4種類ある。どれか見極めることだ。


(1)成長志向型
 高い目標に現状が追いつかない状況だ。たとえば売上が急拡大しているのに生産が追いつかない。顧客は困っている。設備増強のように現状改善の提案をすると買う可能性が高い。

(2)トラブル型
 トラブルを正常に戻したい状況だ。顧客は「正常に戻せればぜひ買いたい」と考える。

(3)平静型
 顧客は「現状問題ない」と考えている。たいていの提案には否定的だ。前出の「成長」や「トラブル」を感じると動く可能性もある。

(4)自信過剰型
 「現状でき過ぎ」と自信満々な状態。何を提案してもダメで売り込み成功の可能性はゼロ。ムリせず「困ったら声かけてください」と伝えておくことだ。

【次ページ】法人セールスで見極めるべき要素4~6
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