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それは、“One for All、All for one”の精神で成功させたAI導入プロジェクトだった。2020年2月、東京・JPタワー ホール&カンファレンスで開催されたブレインパッド主催「DOORS BrainPad DX Conference」に、キユーピーが登場した。同社は食品業界全体の課題解決を期して、不良品検出精度100%のAI画像原料検査装置を開発。同社 生産本部 生産技術部 未来技術推進担当 部長 荻野武氏が、オープンイノベーションとして取り組んだプロジェクトの裏側を明かした。AIを“競争領域”ではなく“協調領域”とみなした理由とは。
他社との差別化のためではなく、業界全体を底上げするためにAIを活用
企業の多くは、最新テクノロジーを競合他社との差別化のために活用する。AIも例外ではなく、適用が検討されるのはほとんどの場合、他社との競争領域や新事業領域である。もちろん、差別化を図るためだ。しかし、荻野氏は、“今や敵を同業他社に設定している場合ではない”と語る。
「かつてはJapan as a No.1として技術力を誇り、これが未来永劫(えいごう)続くものと思っていましたが、中国や韓国が日本の模倣から出発し、それでもたいしたことはない、とたかをくくっていたら、なんと追い抜かれてしまいました。もはや先端技術はほとんどの分野で中国が世界一です。日本はこれに対抗する方法を編み出さなければなりません」(荻野氏)
荻野氏の提案はこうである。現状のAI導入プロジェクトは、それぞれの企業がAIエンジニアを採用して製品・サービスの優劣を競う。この方式では、1企業で3人のAIエンジニアを確保するとして、食品メーカーが5万社あれば、150万人のAIエンジニアが必要になる。今、データサイエンティスト不足が叫ばれているのも、企業ごとの雇用を前提にしているからだ。数で戦うならば、人口の多い国が圧倒的に有利だ。
そうではなく、どの企業でも展開活用なAIプロジェクトを代表企業が開発し、それを他の企業にも提供することにすれば、AIエンジニアを積極的に動員してもせいぜい数十人程度で済む、というわけだ。キユーピーはまさにこれを実践した。競争領域で戦うための“目玉”としてAIを用いるのではなく、これを協調領域で、イノベーションの一環として導入したのだ。
世界最高性能のAI画像原料検査装置をオープンイノベーションで
具体的にどのような協調領域にAIを用いたのか。自社や協力会社、同業他社といった食品製造に関わるすべての関係者が常日頃から課題認識していたものに原料検査があった。
同社の創始者 中島菫一郎氏も「良い商品は良い原料からしか生まれない」と明言しており、原料の安全・安心を確保することは同社の理念の一つだ。
しかし、たとえばベビーフードに用いるダイスポテトの不良品除去では、数千万円クラスの欧州製原料検査装置を用いても高い精度は望めず、大勢のスタッフによる再検査が不可欠だった。つまり、人手がかかっていた。
また、不良品のパターンは無数に存在するため、毎日エンジニアが新たに登録する必要があった。しかも、同社でも高価と感じる原料検査装置だから、中小の原料・食品メーカーではとても導入できない。
そこで同社は、「キユーピーだけでなく、現場で本当に使える、世界一の性能を備えたAI 原料検査装置を、世界一安く、必要とする方々へ提供する」こととする。そして、オープンイノベーションプロジェクトとして整えたスキームが以下である。
荻野氏は、グーグルが開発した機械学習ライブラリTensorflowが登場したときから直感的にこれが伸びると判断。機械学習プラットフォームとしてはグーグルのテクノロジーを採用し、グーグルから推薦を受けて、ブレインパッドを応用技術開発パートナーとして迎えた。
アプリケーション開発には同氏の古巣である日立製作所やシステム構築にはキユーピーの生産技術部門も関わっており、「キユーピーの現場力とオープンイノベーションで築いたAI力の掛け算でこの仕組みを作り上げた」と荻野氏は胸を張った。
【次ページ】AIをビジネスの“飛び地”で導入しようとすれば失敗する
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