誰もが経験したことのあるこうした感情や行動の変化には、自己肯定感の上下動が深く関わっています。それは、失恋のようにわかりやすいきっかけがある場合もあれば、自分では原因がよくわからないのに気分が落ち込んでしまうこともあります。
いずれにしろ、安定していた自己肯定感が下ったとき、下ったままで低空飛行を続けているとき、私たちは調子の悪さを実感します。そして、調子の悪い状態を放置しておくと、「自分はダメだ」という自動思考の罠にはまり、負のループに陥ってしまいます。
人はネガティブな思考をしてしまうようにできている
なぜ負のループに陥ってしまうのか、それには理由があります。
アメリカで行われた心理学の研究によると、私たちは1日に6万回の思考をおこなっているそうです。これは起きている時間、1秒に1回、何らかの思考をしながら生きている計算になります。1回を1つの単語に置き換えるとしたら、6万単語を思考しながら生きているということです。
しかも、6万回のうち、約80パーセント、約4万5000回は、身を守るためのネガティブな思考になりがちであることがわかっています。ということは、6万単語のうち、約4万5000単語は、ネガティブな単語を思考しながら生きているのです。1日24時間、8時間の睡眠をとっているとして、3秒に2回は身を守るためにネガティブな単語が頭のなかをよぎっていることになるわけです。
日本人は不安になりやすいからこそ、つながりを大切に
心理学者の指摘でわかっていることは、日本人は欧米人に比べてセロトニン分泌量が少ないため、そもそも不安感が強いということです。このような人格特性の約50%は、先天的に遺伝によって決まるという研究もあり、日本人は遺伝的に楽観的にものごとを考えることが苦手な民族と言えます。つまり、欧米人に比べて遺伝子レベル的にも自己肯定感が低いのです。
欧米人は、自分のアチーブメント(達成)に対して、脳内でドーパミンが放出されて幸福感を得る傾向が強いのです。自分がどのくらい稼いだとか、どのくらい成功したかで満足感を得るドーパミン型です。
これに対し日本人は、人に必要とされているときにオキントシンやセロトニンといった物質が放出されて幸せを感じる傾向が強いというのです。
欧米人が幸福感を得る社会的成功や高い収入に対しては、日本人はそんなに幸福を感じず、むしろ不安感が高まるという傾向もあります。日本人が多幸感を得られるのは、好きな人と一緒にいたり、仲間と協力して何かを成し遂げたりして、オキシトシンが出たときと、心の平安を感じてセロトニンが出たときなのです。
社会との結びつきが希薄になり、働き方も欧米型に転換した現代は、遺伝子レベルでも生きづらさを感じ、自己肯定感が低い状況になっています。
大切なことは、お金や名声を得ても、それだけでは満たされないと知ること。もちろんお金と名声も大切なことだけれど、そこに振り回されて、一喜一憂して生きないこと。一喜一憂すると、どんどん自己肯定感が低下してしまいます。
さまざまな分野の人と新たに知り合い、つながり、そこからワクワクするやりたいことが芽生えていく豊かな人生を、幸せを感じながら過ごしていく。自己肯定感を高めれば、挑戦する心、興味をもつ心が育ち、好奇心が旺盛になります。それが、線となり想定外な方向に結びついて新しい自分を発見できます。
自分がやりたくて仕方がないことや、人や社会の役に立つことを始められ、新しい人と出会い、その出会いから感謝と感動を得て、どんどん自己肯定感が高くなっていく。そういう正の連鎖が動き出します。自己肯定感を高くすれば、短い満足と長い幸せのバランスをうまくとることができるようになるのです。
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