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120年にも及ぶ歴史を持ち、日本最大級の企業情報データベースを持つ信用調査会社として知られる帝国データバンク。その中で、50年以上企業倒産の現場を分析し続け、「成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある」と述べる同社の情報部は、導き出した失敗の公式を記した『
倒産の前兆』を8月6日に刊行する。今回、本書を執筆した情報部の2人に、書籍に載せられなかった企業なども含め、倒産事例から得られる「企業存続のための教訓」を聞いた。
「成功」ではなく「失敗」にフォーカスした理由
──帝国データバンクでは、企業の倒産とどのように向かい合ってきたのでしょうか。
丸山氏:信用調査会社として100年以上の歴史を持つ弊社ですが、情報部門が倒産企業の取材を始めたのは55年ほど前の1964年(昭和39年)からです。当時は倒産というネガティブな取材を始めることに、相当な逡巡があったようです。
遠峰氏:ただ、当時の大蔵省銀行局から「統計情報として、倒産の件数を集計して発表してほしい」という依頼があったこともあり、そこから情報部としての活動がスタートしました。現在、情報部門としては全国で約70名の情報記者が、全国の倒産の現場を追いかけています。
──倒産は成功事例ではなく、失敗事例です。なぜ本書では「失敗」のほうを取り上げたのでしょうか。
遠峰氏:弊社が保有するCOSMOS2企業概要ファイルに収録されている約147万社のデータベースの中にも、今後、絶対倒産しないと言いきれる会社はありません。
だとするなら、倒産してしまう会社とそうでない会社を分けるポイントは何か。我々情報部が倒産事例を取材する中で見てきた背景や、倒産に至った経緯などが、経営者にとって1つの参考になればという思いがありました。
成功事例は耳ざわりは良いのですが、偶然や超優秀な人材などに左右され、あまり再現性が高くありません。しかし、失敗事例は再現性が高く、一般化できる法則も見い出しやすいのです。
丸山氏:また、企業で働く人にとっても、実は自分の会社がどういう会社かというのが分かっていないケースというのが、特に中小企業では多いのではないかと思います。
たとえば、数字では測れない会社の定性的な部分で、倒産に至る会社に共通するポイントがないか、自分の会社に置き換えたときに、「ウチの会社、大丈夫かな」という参考になればと思ったことも、本書を書こうと思ったきっかけの1つです。
──『倒産の予兆』では、派手な大手企業の倒産劇ではなく、中小企業にフォーカスしています。“普通の会社”から失敗を学ぶ意味はどこにありますか?
丸山氏:企業数で見ると、日本では中小企業が99%を占めます。そのため、一般的な考え方としては、大企業の事例というのはあまり参考になりません。
たとえば、東芝のような大企業で起こった不適切会計問題は、倒産していてもおかしくない事例でした。しかし、従業員や取引先、その家族など、及ぼす影響が大きすぎるがゆえに、さまざまな形で支援も入るわけです。
ですから、大企業は1つの事例としてはあっても、やはり自社の参考になる情報というと疑問符が付きます。中小企業にクローズアップしたほうが、多くの方に参考になると考えています。
「大ヒット商品がほころびを生む」という皮肉
──倒産する企業の法則の1つとして、「大ヒット商品がほころびを生む」という事象を挙げられていますね。企業はヒット商品を作りたいと思って努力しているのに、それがほころびを生むというのは皮肉ですが……。
丸山氏:企業にヒット商品が生まれると、売上が急激に伸びるわけです。一方で、世の中の需要というのはいつまでも続くものではない。さらには競合商品も当然出てきます。
1つの看板商品ができたときに、その売上はいつまでも伸び続けるわけではありません。そこで、海外市場に目を向けるとか、代わりのヒット商品を作っていくということをせず、1つのヒット商品にあぐらをかいてしまうと、結局ほころびにつながっていくということですね。
──なるほど。ヒット商品が生まれると投資が過大になるという話もありますが、そのあたりについてはいかがですか?
丸山氏:やはり、受注が増えるとそれに応じて生産設備の増強に投資するわけです。ただ、その先に売上が減るということは、投資の段階ではあまり考えなかった。借金して工場を作ってみたものの、結局、売上が減ってしまい、工場稼働率が下がって利益も減ってしまうケースが起こり得るわけです。
──本書では大ヒット商品が首を絞めた事例として「ノンシリコンシャンプー」ブームの火付け役と言われるジャパンゲートウェイの事例が紹介されていますね。
【次ページ】「1.5秒に1本売れる」大ヒット商品が首を絞めた理由
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