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  • 2019/04/22 掲載

WeWork(ウィーワーク)はなぜ不動産業界の脅威になるのか、そのビジネスモデルの正体

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話題を集めるコワーキングオフィスの中でも急激な拡張で話題を集めるWeWork(ウィーワーク)。創業から8年で、すでにマンハッタンではJPモルガン・チェースやゴールドマン・サックスを上回る賃貸面積を占める。東京でも18年2月のアークヒルズサウスに開設以来順調に数を伸ばし、2019年4月時点ですでに15拠点に上る。『不動産テック 巨大産業の破壊者たち』(日経BP社)を著した3名が、世界をすさまじい勢いで制しつつあるこのウィーワークのビジネスモデルを明らかにする。

ウィーワークはこれまでのシェアオフィスと何が違うのか

 ウィーワークの外見を特徴づけているのが、それまでのシェアオフィスやサービスオフィスにはなかった、カジュアルでポップな雰囲気。

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中国・上海のウィーワーク
(Imaginechina/アフロ)

 広い共用ラウンジには色とりどりのソファやテーブルが置かれ、フロアをつなぐ内階段はインダストリアルなデザインに彩られる。一角のドリンクコーナーでは、海外クラフトビールのサーバーが冷えたグラスとともに備えられ、利用者や来客が何杯でも無料で楽しめる。

 ラウンジの両サイドには会議室やデスクがガラス越しに配置され、外から中の様子が感じられるよう工夫されている。

 夕方6時ともなれば、ラウンジの一角で交流会が始まり、にぎやかな生演奏が華を添える。テーマはスタートアップのピッチイベントから映画や音楽、ヨガ教室までさまざま。利用者同士の親睦を深め、ビジネスでの協働を促すこうしたイベントの存在は、ウィーワークが自らをサービスオフィスと呼ばず、コワーキング(協働) オフィスと呼ぶゆえんでもある。

 各施設に、会員企業間のマッチングやイベントの企画運営を行う「コミュニティマネージャー」が常駐しているのも同社の特徴だ。

ウィーワークのすさまじい拡大

 国内大手の不動産仲介会社によると、同社の進出前、都内で空室を抱えるほぼすべてのAクラスビルに対しウィーワークからの問い合わせがあったという。米本社の幹部が日本進出にあたり訪れたビルの数は150棟を超える。日本法人のゼネラルマネージャーには、ウーバー日本法人から代表の髙橋正巳をスカウト。人材を急ピッチでかき集めた。

 以降の同社の拡大ぶりはすさまじい。

 18年4月以降にはGINZA SIX、丸の内北口ビル、空きビルとなっていた新橋のオフィスで立て続けに施設を開業。11月には横浜みなとみらいの新築ビルに4フロアを賃借し、日本上陸以降で最大となる2800席規模の拠点を開設した。12 月には、東京圏以外で初の拠点として大阪なんば、福岡の大名にも進出を果たした。

 19年2月までに累計で14拠点の開設が判明している。同年内に全国で30拠点以上をめざすもようだ。

 ウィーワークの進出が、賃貸オフィス市場の需給環境に与えた影響は相当なものだ。大手不動産仲介会社のJLLによれば、18年に都心5区でウィーワークが借り上げたオフィスビルの床面積は、8拠点の合計で約4万㎡。市場から新築オフィスビルの空室在庫が払底する要因の一つとなった。進出から1年未満で首位リージャスの規模にほぼ肩を並べ、床面積ベースの市場規模は一気に1.5倍に拡大した。

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世界で急増するウィーワークの拠点数
(出典:ウィーワークの公式資料と報道をもとに作成)
 世界でのウィーワークの拠点数はすでに300近くに達している。ビルの賃貸借契約を結んだうえで、自ら募集した会員に転貸している同社は、既存の不動産業界から見ると大得意の顧客でもある。

 60拠点が集積するニューヨーク市マンハッタンでは累計49万㎡の賃借契約を締結。大手金融機関のJPモルガン・チェースやゴールドマン・サックスを上回り、賃借面積ランキングで最大のテナントに躍り出た。29拠点22万㎡を擁するロンドンでも、近く民間で最大のテナントとなる見込みだ。

ウィーワークが脅威である3つの理由

 ウィーワーク創業の地ニューヨークの不動産業界では、同社をリージャスなどのサービスオフィスの亜種、あるいは多数ある新興企業の一つとして静観する見方が当初は一般的だった。

 当時は現在ほど法人顧客がおらず、古びたビルを改装して貸し出すというニッチなビジネスを柱にしていたことも手伝って、ビルオーナーからは歓迎こそすれ警戒の声はほとんど聞かれなかった。

 ところが同社は、有名ベンチャーキャピタルから次々と大型の出資を得ることで出店を加速し、わずか数年で旧来の不動産会社の顧客として無視できない地位を占めるようになった。ウィーワークの存在感が高まる欧米の都市では、多くの不動産会社が漠然とした恐れを抱いている。

 その一つが、短期賃貸借契約の流行だ。米国や英国では、オフィスビルの賃貸借期間は10年~15年が一般的で、長い場合は20年にも上る。これに対して、ウィーワークは最短1カ月から契約可能。実際には多くの利用者が契約更新を重ねて1年以上入居するとはいえ、一般的な賃貸借よりははるかに短い。より多くの法人顧客がウィーワークに流れ、短期契約の魅力に気づけば、不動産会社の安定収入を支えてきた長期賃貸借契約に見直し圧力がかかることが予想される。

 多くのテナント企業が、人数の増減にフレキシブルに対応できる短期賃貸の一手法として、ウィーワークの顧客となってきた。国際会計基準が、1年以上の賃貸借契約をリース取引としてバランスシートに計上するよう求めたことも、この動きを後押ししている。

 二つ目には、オフィスワーカー1人あたりの床面積の減少が挙げられる。ウィーワークのようなコワーキングオフィスが普及することで、従業員一人ひとりが固定席を持たない働き方が主流になることを恐れているのだ。古くはフリーアドレス、最近ではアクティビティ・ベースド・ワークプレイス(ABW)と呼ばれる考え方だ。

 ABWは、米国でヤフーやIBMなどが相次いで在宅勤務を廃止し、オフィスへの出勤を義務づける方針転換を行ったことで、近年大きな注目を集めた。この理由には、チームワークやコミュニケーションの低下に加えて、期待したオフィスコストが削減できなかったからと言われている。

 こうした会社では、コミュニケーションやコラボレーションを活性化させるため、それぞれのワーカーが最も働きやすい空間を提供するという考え方であるABWに基づいて、フェイスツーフェイスのコミュニケーションを誘発させる工夫を凝らした空間の創出に取り組んでいる。モバイル活用が進む今、そのトレンドは進むことはあっても消え去ることはないだろう。

 三つ目の脅威は、不動産利用の「サービス化」である。不動産会社がテナントとの顧客接点から切り離されることで、単なるインフラ事業者の立場に追い込まれるという懸念だ。上記の二つと比べて業績への直接的なインパクトは少ないが、長期的にはより本質的な脅威となり得る。

【次ページ】法人需要にシフトで既存の不動産業を侵食、そのビジネスモデルの正体
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