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3月期決算企業の4~9月期中間決算の発表シーズン終了。全般的には米中貿易戦争などで不透明感が漂い、通期業績下方修正も少なくなかった中、好調ぶりが目立ったのが「電子部品」セクターだった。これまで元気の源は電装化が進む自動車向け電子部品だとされてきたが、それに加えてモバイル通信の新方式「5G」関連の電子部品の受注、生産が、「5G元年」の2019年に向けて本格化する。高周波用の電子部品の分野では日本勢が圧倒的な強さをみせており、各社の通期の業績や来期の業績では「5G」によって上向きのドライブがかかりそうだ。
絶好調の電子部品メーカー4社の共通点
2018年11月9日、電子部品セクター主要企業の4~9月期中間決算が出そろった。
中間期決算と通期の業績見通しを村田製作所、TDK、アルプス電気、太陽誘電の4社について見てみると、村田製作所、TDK、太陽誘電の3社は中間期決算も、そろって上方修正した通期業績見通しも、営業利益、最終利益は2ケタ増。村田製作所の通期、太陽誘電の中間期の営業利益の伸び率は60%台に達する。この3社については業績は絶好調と言っていい。
アルプス電気は中間期も通期見通しもそろって減益で他の3社と対照的だが、同社は前期の2018年3月期、中間期の営業利益は117.9%増、最終利益は179.5%増の3ケタ増益、通期の営業利益は62.0%増、最終利益は35.7%増の2ケタ増益だったので、業績悪化と言うよりは「業績高止まり」。前期が良すぎた、あるいは他社が良すぎるとも言える。
村田製作所、TDK、アルプス電気、太陽誘電と並べると、「ほかの電子部品大手の日本電産や京セラやロームや日東電工は、なぜないのか?」と聞かれそうだが、電子部品セクターの中でも「5G」との関係の深さでピックアップすると、この4社がまず挙げられる。
高周波電子部品は日本の独壇場
「5G(ファイブ・ジー)」について改めて説明すると「第5世代移動通信システム」の略称でその特徴は「超高速・大容量」「超低遅延」「多数同時接続」という3つのキーワードで説明される。
通信速度10Gbps以上、最高50Gbpsという「超高速・大容量」は、4G・LTEの10~100倍に達し、2時間の4Kハイビジョン動画をたった3秒でダウンロードできるという。また、通信の遅延(タイムラグ)が1000分の1秒以下という「超低遅延」によって信頼性が増し、自動車の自動運転や遠隔医療で安全性が保証されやすくなる。さらに1部屋で約100台、1平方キロメートル四方で100万台以上の通信機器が同時利用できるという「多数同時接続」は4G・LTEの最高100倍の能力を発揮し、あらゆるモノがネットでつながるIoT(モノのインターネット)の実用化への道を開く。
5Gはスマホなどモバイル機器分野にとどまらず、自動運転のようなMaaS(次世代移動サービス)やIoTをどこでも、誰でも利用できるようになり、社会のスマート化の基本インフラになると期待されている。
モバイル通信は基地局との間で電波(高周波)を利用するが、その周波数帯は4G・LTEの「センチ波」3.6GHz以下に対し、5Gでは3.1~4.2GHz、4.4~4.99GHzや、「ミリ波」の26/28GHz帯、38/42GHz帯など高いほうへシフトする(アンリツ作成の資料による)。
周波数も規格も異なるため対応するスマホ用電子部品は4G・LTE用を流用できず、新規に開発されることになる。「チップ積層セラミックコンデンサ」「表面波(SAW)フィルタ」「デュプレクサ」「セラミック発振子」「EMI除去フィルタ」「無線LANモジュール」「ブルートゥースモジュール」「インダクタ」といったものが新規開発される電子部品だ。そしてこれらの高周波向けの電子部品は、日本メーカーの独壇場でもある。
5G関連部品の市場シェア順位 |
|
1位 |
2位 |
3位 |
4位 |
チップ積層セラミックコンデンサ |
村田製作所 |
サムスン |
太陽誘電 |
TDK |
表面波(SAW)フィルタ |
村田製作所 |
クアルコム |
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デュプレクサ |
村田製作所 |
アバゴ・テクノロジー |
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セラミック発振子 |
村田製作所 |
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EMI除去フィルタ |
村田製作所 |
TDK |
太陽誘電 |
|
無線LANモジュール |
村田製作所 |
USI |
TDK |
|
ブルートゥースモジュール |
村田製作所 |
アルプス電気 |
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インダクタ |
TDK |
村田製作所 |
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|
※表中のサムスンはSamsung Electro-Mechanics
※楽天証券作成の図表を参照
中でも村田製作所は「絶対王者」で、上で挙げた8種のうち7種で世界のトップシェアに君臨する。「表面波(SAW)フィルタ」「デュプレクサ」「セラミック発振子」「無線LANモジュール」では世界シェアの過半数を占めている。「インダクタ(RFインダクタ)」ではトップの座をTDKに譲るが、それでも2位につけている。
村田製作所以外では「チップ積層セラミックコンデンサ」では太陽誘電が2位の韓国サムスンに次ぐ3位で、TDKが4位。「EMI除去フィルタ」ではTDKが2位、太陽誘電が3位。「無線LANモジュール」ではTDKが2位の台湾USIに次ぐ3位。「ブルートゥースモジュール」では2位にアルプス電気がつき、「インダクタ」ではTDK、村田製作所に次ぐ3位に太陽誘電が入っている。なお、「表面波(SAW)フィルタ」の世界シェア2位はクアルコムだが、それにはもともとTDKと設立した合弁会社で生産した分が入っている。
総じて言えば、高周波向けの電子部品のジャンルで日本勢のシェアは圧倒的で、今後需要が高まる5G向けマーケットになだれ込む。そのための戦略製品はすでに開発され、受注、生産が始まっている。
たとえば村田製作所の「メトロサーク」は樹脂多層基板で、ミリ波の周波数帯も扱う5Gでの使用を前提に開発されている。2018年1~3月期では開発費用の負担に生産の歩留まりの悪さが重なって赤字を出す製品だったが、4~9月期では生産も販売も受注も快調で、通信モジュール部門の「稼ぎ頭」に躍り出ている。
電圧制御用の「チップ積層セラミックコンデンサ(MLCC)」も本来は高周波用に限定されない汎用(はんよう)性が高い部品だが、5Gに対応できる高周波対策を施した製品、超小型の製品の需要がにわかに高まっている。村田製作所の話によるとハイエンド型のスマホで1台あたり最大約1000個、電気自動車では1台あたり最大約1万個と大量に使われるので、高機能化で単価が上昇すれば収益もその分、大きく拡大する。それを見越して村田製作所は9月、400億円を投資してMLCCを生産する新工場を島根県に建設すると発表。全製品の値上げも発表している。
MLCCの日本勢のシェアは村田製作所が40~45%、太陽誘電が約10%、TDKが10%未満だが、自動車向けに限定すればTDKは村田製作所とほぼ互角のシェアを有し、年20%のペースで生産能力を伸ばしているという。太陽誘電も約100億円を投資して新潟県にMLCCの新工場を建設する。
【次ページ】5G市場は2020年代どれだけ伸びるのか、あの国内メーカーも名乗り上げる
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