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ライフイベントやライフスタイルの多岐にわたる領域で事業を展開するリクルートグループ。そのリクルートグループにおけるIT・マーケティング領域でのテクノロジーの開発・提供をしているのがリクルートテクノロジーズだ。同社の「サービスデザイン部」では、グループが提供するサービスに対し、顧客体験(UX)を切り口に事業を改善している。「UXを重視しているのは、デジタル化以前からです」と語る同社執行役員の塩見直輔氏。UXをめぐるこれまでの経緯や、UX開発において重視していること、そして「サービスデザイン部」という名前に込められた、UXデザイナーに求める役割を聞いた。
(聞き手:ビジネス+IT編集部 山田竜司)
デジタル化以前からUXを重視するのは当たり前だった
──多様な業種、業態があるリクルートグループでUXを切り口に事業の改善をされています。そもそも「デジタル化」というものをどう捉えていますか?
塩見直輔 氏(以下、塩見氏):リクルートは紙メディアの会社だったので、デジタル化に着手したのは危機感からだったのだと思います。デジタルメディアというプレイヤーが増え、自分たちよりも便利な存在が出てきて世の中が便利になるのであればそれはそれでいいこと。
ただ、私たちは「顧客の“不”」をどう解消するかを長年誰よりも本気で考え抜いてきた自負があります。業界で2番手3番手に落ちたら、ビジネスとしては1番手を追いかけることも考えなければならなくなる。課題解決ではなく競合対策に時間を使うのは「もったいないこと」という認識があり、ならばデジタル化に対応して自分たちが課題解決の先頭であり続けようと考えたのだと思います。
──UXを徹底することに行き着いたのは、そういった顧客への真摯な関わり方が背景にあるのでしょうか。
塩見氏:UXを重視しているのは、デジタル化以前からです。情報誌で、「不動産情報をわかりやすく見せるためにエリア別インデックスを付ける」のも、「求人情報を職種別で並べる」のもUXですよね。
対象が本なのかウェブなのかの違いだけです。デジタル化の波が来て、それまでやっていた行為に後から「UX」という名前がついたという感覚です。不便を改善してお客さまに提供し体験価値を向上すること自体はずっとやっていますし、そのような企業も多いのではないでしょうか。
デジタル化によって起きたのは、その実現にテクノロジーが必要になったことです。そのため、専門性を持った人を集め、その組織をマネジメントするUX担当の役員というポジションを設けたのだと理解しています。
──塩見さんはその中でどんなお仕事をされていますか?
塩見氏:組織をデザインするのがメインです。今はリクルートテクノロジーズの執行役員として、UXデザイナーにとって一番働きやすい組織を考えています。基本的に、すべての答えは現場にあると考えていますので、目的である顧客の体験価値向上のためには、私が動く時間よりも現場のUXデザイナーの動く時間の方が重要です。
人の何倍もUXのことを考えている人たちが3倍動けるようにするにはどうしたらいいか、具体的にはどうポジションや権限を配分するかを考える役に徹しています。
──現場に大きな権限を与えているようにも見えます。
塩見氏:繰り返しになりますが「答えは現場にある」を信じて、ボトムアップ型でやるべきことを決めるのがリクルートグループの特徴です。ボトムアップ型の場合、ある程度の失敗があることは前提として多くのチャレンジをしないといつまで経っても正解にたどり着きません。メンバーの自主性を尊重し失敗をどんどんしてもらった中から当たりを見つけて行く。「三振してもいいからホームランを狙え」が我々の企業文化です。
また、組織長になってから痛切に感じますが、デジタル化により専門性の細分化が進む中で、自分の専門外の判断は本当に難しい。無駄にカッコつけてこれまでのやり方で判断して誤った例を数多く見てきました。私見ですが「人は未知、もしくは自分を超える存在を正しく評価できないのではないか」と思います。なので「失敗前提で専門家に託そう」としています。
サービスデザインに必要な10の職能
──現場にはどんな専門家が集まっていますか?
塩見氏:リサーチャー出身、マーケター出身、エンジニア出身……さまざまな人がいます。文系、理系もさまざまです。
UXデザイナーが集まった部署を社内では「サービスデザイン部」と呼んでいます。サービスデザインに必要なケイパビリティ(職能)を、10個定義しています。
儲けてからユーザーに投資するという考えもあるし、ユーザーの支持を得てから儲けるという考え方もあります。UI/UXという点ではここまでの領域は扱わないのが一般的かもしれませんが、その葛藤まで考えるのがサービスデザインだという認識です。
我々はサービスデザインに必要なケイパビリティ(職能)を、10個定義しています。
全部を備えれば完全体のサービスデザイナーですが、それぞれが日々深化しているので「全部を深く」を目指すと気の遠い話になります。どういうバランスで、どれを取りにいくかは、日々メンバーと話しています。
──UXの定義に、サービスのデザインまで含めているのですね。
塩見氏:定義というほど明確ではありませんが、リクルートグループでは、「世の中にある“不”をどう解消するのか」という意味でUXが語られることが多いですね。ユーザーの不と、クライアントの不、両方を解決することを考えています。
たとえば、お店の席をインターネットで予約できたらユーザーは便利ですが、クライアントであるお店側は「空席を登録する」という手間が増えます。
そこで、「空席登録してもらえるならメディア上でフューチャーして表示される」とすれば、集客が増えるため多少の手間が増えるマイナスが打ち消されます。ユーザー接点とクライアント接点、両方を持っているからこそできるデザインが特徴的な点です。
【次ページ】UXデザイナーは何を担うのか
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