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API、あるいはAPIエコノミーが新たな企業価値の創出手段として注目を集めている。とはいえ、APIは多くの企業にとってなじみが薄く、API開発にあたっては戸惑うことも多い。ガートナー リサーチ部門のバイス プレジデントを務めるパオロ・マリンベルノ氏がAPI開発の目指すべき方向性と、その実践に向けた方法論を解説した。
※本記事は「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション戦略&アプリケーション・アーキテクチャ サミット 2018」の講演内容をもとに再構成したものです。
APIとは何か? 広がりを見せるAPIエコノミー
「API(Application Programming Interface)」とは、アプリケーションの機能を外部から呼び出し、共有する仕掛けである。社内外とのやり取りでのIT活用が広がる中、企業が保持するデータを適切な形で提供し、新たな価値創出につなげる手段として、APIへの関心は高まるばかりだ。
だが、「APIは決して目新しいものではない」とガートナー リサーチでバイス プレジデントを務めるパオロ・マリンベルノ氏は語る。
「API自体は20年以上も前から存在する。確かに少しずつ変わってきたが、シンプルで扱いやすくなったという程度だ。対してAPIを取り巻く環境は驚くほど変わった。APIの利用拡大により、“経済圏(エコノミー)”がこれほどに広がった。加えて、開発実務者の代わりに、今ではCIO(Chief Information Office)やCDOが(Chief Digital/Data Officer)が話を聞きに来るようになった」(パオロ氏)
APIが注目されるこれだけの理由
パオロ氏が変化の理由として挙げたのが、APIの応用の裾野が広がったことで、APIがアプリケーション開発でアーキテクチャの中核を担うまでになったことである。
説明のために引き合いに出したのが、人工知能(AI)を搭載したスピーカーの処理である。利用者がAIスピーカーに質問すると、AIスピーカーはクラウドにアクセスする。そこでは、過去のやり取りで蓄積された利用者の性別や年齢、嗜好などを基に、質問の真意をつかむための各種処理が行われ、結果を基に、今度は日付や言語など、検索すべきデータの条件を割り出す。
その上で検索結果がフィードバックされ、AIスピーカーは内容を読み上げる。
「単純に答えを読み上げるだけでも、AIスピーカーとクラウド内の各種コンポーネント間で複雑な処理が行われている。そうした処理はAPIを使わなくても確かに可能なはずだ。しかし、APIを利用しなければ、連携先が多くなるほどに作り込みが複雑となり、コストや手間、処理スピードなどの面で実現が難しくなる。それらを勘案すれば、多様なユーザーによる常時利用が前提の企業アプリケーション開発ではAPIの採用が機能追加の簡単さからも必然となる」(パオロ氏)
しかし、古くて新しいAPIはいまだ進化の途上だ。アプリケーションの社内活用策である「プライベートAPI」を除けば、大多数の関連技術は実のところ「思ったほどには使えない」段階にとどまるという。
ただし、この状況は数年で劇的に改善するとパウロ氏は訴える。社内システムは「SoE(System of Engagement)」と「SoR(System of Record)」に大別され、それぞれ“攻め”と“守り”を担うが、従来はデータの厳格管理に重きが置かれ、そのためのシステムの硬直性がSoE、つまりデータ活用の“壁”となっていたが、これを結びつける機運が急速に高まっているからだ。
「複数サービスをAPIでつなぎ、1つのアプリケーションを構築するマイクロサービスを用いれば、SoR側からデータをより柔軟に取り出せるようになる。そこで、競争力に直結するIT活用を目的に、APIの利用機運が盛り上がり、経験とノウハウが短期に積み上がることで、各種課題は早期に克服されるはずだ。言い換えれば、APIなくしてバイモーダルはあり得ない」(パウロ氏)
どのような開発体制がよいのか
目的が変われば、開発体制も必然的に変わる。SoRで重視されるのは業務継続のための安定性や信頼性であるのに対し、SoEで求められるのは要求にできる限り早く応えるための迅速さだ。そのため、SoE開発では目的の早期達成に向けた創造的なアイデアが重視され、また、開発チームには短期開発を得意とする人材が抜てきされることになる。
もっとも、「APIを利用するコンポーネントはさまざまで、どうAPIを作ればよいかで悩む開発者も少なくない」(パウロ氏)。この疑問も、ユーザーが結果的に何を求めているかを突き詰めることで自然に解けるという。
パウロ氏は、「ユーザーが求めているのは何らかのデータだ。それをAPIでどう生み出すかは、いつ、どこで、何を、といった具合に聞き出すことで見えてくる。その手間を嫌い、とりあえず多数のAPIを用意してユーザーに使い分けてもらおうと考えることは厳禁だ。ユーザー視点が欠けていれば不備がそれだけ生じやすく、結果的に利用が進まない状況に陥りやすくなる」と警鐘を鳴らす。
なお、以下はAPI管理ベンダーのMagic Qadrantになる。
API開発の一連のプロセスを円滑に回す上で、API利用者の声に耳を傾け、API作成者を指揮する「APIプロダクト・マネージャー」の存在が鍵を握る。事実、デジタル化の先進企業では同職を4割以上が配置するのに対し、後れを取る企業では1割にも満たないのが実情である。
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