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- 2017/09/05 掲載
CASH騒動をプロジェクト工学で解析、そこから得られる教訓とは?
CASH騒動をプロジェクトマネジメントの観点から振り返る
24日には改善策を講じて再開している同サービスだが、今回はその失敗までの流れをあらためて見直すことで、プロジェクトを進めるうえで活かせることを見つけたい。
CASHが話題を集めたポイントは大きく2つあった。1つは「写真を送って現金を手にした人が、約束通り返金しない場合への対処方法」だ。利用上限金額を2万円と低く設定しておけば、商品も送らずお金も返金しない悪質ユーザーアカウントが発生しても、機械的に停止措置だけすれば、与信審査や取り立てよりも全体としては運営コストが抑えられるはず、という考えである。ローンチ前は、この考え方は性善説的であり、現代的、合理的で、イノベーティブだという見方も多かった。
もう1つは、「実質的には質屋であるにも関わらず、あれこれと理屈を並べてグレーゾーン的な立ち位置を取ること」の是非についてだ。単に貧困な人々をターゲットにした偽善的金儲けビジネスであって、イノベーションなんてとんでもない、という人も多い。
再開にあたって開示された資料によると、当時の98%がアイテムの送付を選択し、手数料を支払ったのは2%だったということだ。結果として、CASHは「実態としては金融サービス」ではなく「実態として、中古物品の買い取りが非常に楽なサービス」だったということになる。
その前提でサービス再開されている現状を踏まえ、金融サービスとしての適法性や偽善性の問題については脇に置き、主に前者について考察したい。というのも、今回の騒動は、その本質は非常に典型的な「不特定多数の協力を要するプロジェクト」であり、その種のプロジェクトにおいて必ずはまる落とし穴として、非常に示唆に富むものだからだ。
そこから得られる教訓は、その他のさまざまなプロジェクトに携わる人々にとっても、大いに参考にすべきものなのである。
「コブラ効果」と同じ典型的な落とし穴にはまったCASH運営者
「コブラ効果」という言葉がある。「こうしようと思って行った施策が、逆効果をもたらす」という意味の言葉だ。その昔、インドを植民地支配していたイギリス人の知事が、市中のコブラを駆逐しようとしてコブラに賞金をかけた。市民は真面目にコブラを捕獲するかと思いきや、コブラの存在を忌むべきものとは考えていなかった彼らは、なんと養殖して届け出てしまった。慌てて法律を撤回したら、今度はお金にならないということで、大量のコブラを解き放ってしまい、逆に増えてしまったというお話である。
これもまた典型的な「不特定多数の協力を要するプロジェクト」だ。知事が「コブラを捕まえてきたら、お金を出します」というお触れを出す。行政側は必ずや市中のコブラを捕まえてくれるものと信じ、かたや市民の側は養殖すれば楽してお金が儲かると発想する。
起業家が「実質的に質屋的なサービス」をローンチする。しかしユーザーはただ面白がってお金だけ引き出すだけで、運営側は価値のない物品を送りつけられてしまう。
「プロジェクト譜」で表現すると、2つのエピソードが、極めて類似した構造を有していることがよくわかる。
プロジェクトにおいて、依頼内容とアウトプットした内容にギャップが生じるのは日常茶飯事だ。自分がマネジメントできる指揮系統下にある人々だけでなく、不特定多数のユーザーや協力者を巻き込むプロジェクトであればなおさらだ。
災害後の復興活動で支援物資を募ったが、現地のニーズと支援品がマッチしない、といったこともよく耳にする話だが、さまざまな企業活動、行政活動、地域活動において同型の失敗談には事欠かない。
キーワードはただ1つ。企画段階での「性善説的な思い込み」である。人は不特定多数の人々に何かを呼びかけるとき、無意識に自分がオーダーしているものを必要十分に相手も理解してくれるはずだ、と考える。その思考には数え切れないほどの死角があるのだが、実際にことを実行するまで、それに気づけないのである。
【次ページ】「不特定多数者巻き込み型プロジェクト」が難しい理由
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