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ニコンといえば、デジカメの販売台数激減のショックに加えて、半導体製造用の露光装置でオランダのASMLにシェアを奪われ、前期はリストラを断行して最終赤字転落を余儀なくされ「再起不能か」とまで言われた。それが今期は一転、劇的なV字回復を遂げる可能性までささやかれている。なぜニコンに大復活もありえるのか。そこにはニコンの“虎の子”ともいえる事業の存在があった。
東京エレクトロン新中計の「サプライズ」
5月31日、半導体製造装置の世界トップ級メーカー、東京エレクトロンが、新中期事業の目標を発表した。
目標年度2020年3月期の半導体前工程(WFE)の市場規模見通し(全世界)を、2015年7月発表の旧中計の300~370億ドルから420~450億ドルへ大幅に上方修正。自社の売上高目標も7200~9000億円から1兆500億円~1兆2000億円へ、最大1.5倍に上積みするという内容だった。
この発表を受け、翌日の6月1日から半導体関連銘柄がにわかに活況を呈し、5月31日の終値と比べた株価は東京エレクトロンが6月9日までに8.3%、ディスコが7日までに5.9%上昇し、年初来高値を更新した。そんな半導体関連ブームが起きた中、徐々に株価を上げて6月20日までに6.7%上昇したのが、ニコンだった。
ニコンと言えば前期、2017年3月期は最終赤字に転落するほど業績が急激に悪化し「負け組の筆頭」とか、「再起不能か?」とまで言われた。
2013年3月期に1兆円を超えていた売上高は7,488億円で、4年間で売上の約4分の1が失われた。営業利益は2013年3月期の510億円に対して509億円でほぼ同じだが、当期純利益は424億円の黒字から71億円の赤字に転落してしまった。
業績悪化の直接の引き金は、連結売上高の6割以上を占めていたニコンのカメラが売れなくなったことだった。2017年3月期の映像事業の売上収益は26.4%減、営業利益は39.3%減と大幅に悪化している。
製品別では、看板製品の一眼レフ(レンズ交換式デジタルカメラ)の販売台数は23.2%減、交換レンズは21.6%減だったが、コンパクトデジタルカメラが壊滅的に売れなくなって48.7%減と、1年でほぼ半減した。
カメラの販売激減に加え、インスト事業は営業利益が2016年3月期の28億円から3億円に激減し、メディカル事業は営業赤字から抜け出せないまま。2017年3月期の業績悪化見通しを受け昨年11月、ニコンは構造改革計画を打ち出した。
「選択と集中」を旗印に1000名規模の希望退職募集、200億円の固定費削減、480億円のリストラ費用計上という大ナタをふるい、映像事業では国内で350名規模の人員適正化を行った。そのリストラ費用の特別損失計上によって、通期決算は最終赤字に転落した。
半導体露光装置はライバルASMLに完敗
だが、それ以前からニコンは、もう一つの柱である精機事業で「半導体露光装置(ステッパー)(注)世界シェアの長期低落」という重大な問題を抱えていた。
注)半導体露光装置:シリコンなど半導体の板に、電子部品の回路パターンを光学的に焼き付ける装置。光の波長が短いほどより微細な加工ができる。
2000年頃まで、この装置でニコンは世界シェアの4割以上を占めるトップで、キヤノンとともに日本製の独壇場だった。しかし2016年時点のシェアは「i線」ではまだ20%あるが、より微細な加工ができる「KrF」は8%、「ArF液浸」は8%で、昔日の面影はまったく消え失せている。
ニコンに代わって現在トップシェアを占めているのは、オランダのフィリプスから1984年にスピンオフし、アメリカのSVG(シリコンバレーグループ)を吸収合併して業容を急拡大したASMLという企業だ。
微細度が大きくないタイプのi線はキヤノン(57%)にトップを譲って23%だが、KrFは62%、ArF液浸ではシェアが92%もある。半導体露光装置の世界シェア争いで、ニコンはASMLに完敗してしまった。
ニコンとASMLはかつて装置の特許をめぐって訴訟合戦を繰りひろげ、2004年にいったん和解しニコンは和解金を得たが、今年4月、訴訟合戦が再開している。もし敗訴すればニコンはトドメを刺されかねない。
ニコンは本当に「再起不能」なのか? だが今期、再び起って闘うのに十分な環境は、すでに用意されている。
【次ページ】ニコンの「最後の希望」とは
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