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- 2017/04/26 掲載
Mission ARM Japanは「Googleインパクトチャレンジ」から「電動義手普及率20%」へ挑む
MAJがGoogleインパクトチャレンジに挑戦したワケ
MAJは2014年6月、上肢障害の当事者が集まる場として設立された。当事者にしかわからない悩みや情報の共有を広げていきたいという思いで作られた組織だ。そんなMAJがGoogleインパクトチャレンジに挑戦したきっかけは、筋電義手「handiii」の実用化を進めていたexiiiとの出会いだった。
3Dプリント義手「handiii」のコンセプトモデルを発表した近藤玄大氏、山浦博志氏、小西哲哉氏は「handiii」を実用化するためにexiiiを起こし、本格的な開発に着手していた。
彼らが開発したhandiiiはパーツの製作に3Dプリンタを使い、筋電(筋肉が発する電気)の制御をスマートフォンで行う。それによりコストを抑え、数万円台で電動義手を実現する。数万円というのは、従来の義手の価格である150万円と比較すると破格だ。実用化に向け、資金調達にクラウドファンディングを利用するなど、ハードウェアスタートアップの雄として、注目を集めていた。
ちょうどそのとき、exiiiを取り上げたニュース番組を見ていたMAJのメンバーがexiiiに連絡してきた。
近藤氏らにとっても、当事者だけでなく、支える周囲の人(義肢装具士、作業療法士、医療関係者ら)が集うコミュニティとの連携は貴重な機会だ。面会したMAJ理事の倉澤奈津子氏と意気投合し、exiiiが技術協力する形でGoogleインパクトチャレンジのプロジェクトが始まった。
その後、exiiiはhandiiiをベースに日常生活での使用に耐え得るプロダクトとして「HACKberry」を発表する。現在、HACKberryを構成する各部品の3Dデータ、基板や制御用のプログラムはオープンソースハードウェアとして、世界中の誰もが作れるように公開されている。
HACKberryはこのように動く
電動義手が普及しないのには理由がある。学生時代から義手の研究をしてきた近藤氏は、これまで、その要因の1つである「価格」を開発によって解消しようと、handiii、そしてHACKberryと開発を続けてきた。
従来の義手であれば、義肢装具士が患者1人ひとりに合わせ、型をとり、それを元にシリコンなどで造形する。完全にオーダーメイドの世界で、高価格なプロダクトだ。HACKberryであれば、3Dプリンタを使って自分で作る場合は5万円以下で作れるというところまで進んできている。
しかし、それだけでは足りない。「開発をすればいいというだけではない」と近藤氏は指摘する。もっと情報を各地に届けていかなければ、義手が必要になった場合の具体的な選択肢にならない。「開発」と「普及」の両輪が必要なのだ。
MAJの数値目標は前述のとおりだが、HACKberryに限らず、3Dプリント技術などデジタルファブリケーションを活用し、もっと義手をカジュアルなものに、選択肢を広げるものとしたいという気持ちが根底にある。
コミュニティを支えるプラットフォームを作りたい
MAJの活動イメージは図のとおり。たとえば、HACKberryを欲しいと思った人は、どうすればHACKberryを手に入れることができるのかわかるだろうか。検討もつかないだろう。当事者も突然当事者になるわけで、それまではそうした知識はない。そんなとき、こうしたコミュニティがあれば、医療関係者、作業療法士、義肢装具士、それぞれ必要な段階で必要な人が臨機応変に相談に乗ることで、なるべく早く手にすることができる。
そのような事例はすでにある。
ペルーから来日し交通事故に遭ってしまった人がいる。日本の制度の中でどうしたら義手を手に入れることができるのか。彼女の場合、exiii経由で連絡が来て、実際にMAJの集まりに参加してもらい、専門家がルートを示すことで2ヶ月で義手を作ることができた。
また、歌手のbeautyANDSnowさんの場合、ライブでジェスチャーができる義手が欲しいとexiiiに連絡した。これは多くの人にとってマストな要件ではないかもしれない。しかし、彼女にとっては重要な、満たされなければならない希望だ。
このように上肢障害といっても、1人ひとりのニーズが異なる。企業が1社でその1つひとつのニーズを満たしていくのは難しい。しかし、コミュニティならそういう仕組みを作ることができる。1人ひとりのさまざまなストーリーに寄り沿っていける可能性がある。
近藤氏がここで強調したのは、「いまは義手を作るだけの段階ではなく、少しでも多くの人のライフスタイルを明るくしていこうという段階なのだ」ということだ。
1人ひとりが違うということを前提に、それぞれのライフスタイル、個性を大切にした上で、生活を豊かにするさまざまなアイデアを手軽に試す場として、いま水曜日の夜に定期的に集まり、フラットな立場での議論やさまざまなアイデアの検討、プロダクトやサービスの開発を行っている。
最終的にMAJが目指すのは、図のようなプラットフォームだ。
ポイントはコミュニティと呼んでいるものの下にプラットフォームを作ること。Googleインパクトチャレンジの助成金が尽きて終わり、ではなく、継続できる場を目指している。
【次ページ】最新技術による義手の進化
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