0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
共有する
いまや日本企業においてもクラウド利用は当たり前になりつつある。そうした中、システムリソースの調達やアプリケーションのレンタルなどを目的としたクラウド利用から、コアのビジネスに迫るアプリケーション・プラットフォームサービス(aPaaS)としてのクラウド利用へのシフトが加速している。ただ、世の中には多様なaPaaSが存在しており、自社のアプリケーション特性に最適なベンダーの選定は容易ではない。ガートナー リサーチ部門 リサーチ ディレクターの飯島公彦氏が、クラウドをアプリケーション・プラットフォームとして選択する場合の留意事項について解説する。
aPaaS利用の6つのメリット
アプリケーション・プラットフォームをクラウド化する、すなわちaPaaSを利用することで、大きく次の6つのメリットを得ることができる。
捨てる:クラウドを利用することでノンコア作業を割愛する
上げる:ライフサイクル管理全体を通して効率性/生産性を上げる
使う:最新のサービスや機能をいち早く活用できる
頼れる:トレードオフになりがちだった高可用性と拡張性を両立できる
変わる:常に進化するプラットフォームを活用できる
統べる:コストやベンダー・サポートを統率できる
ただし、この6のメリットすべてを同時に達成しようと考えるのは現実的ではない。aPaaSのサービス内容やそのレベルはクラウドベンダーによって異なるため、優先順位を明確にした選定が重要となる。
具体的にどのような観点からその優先順位を決定すればよいのだろうか――。ガートナーが提示するのは、「プロバイダー管理vs. ユーザー管理」「開発言語/フレームワーク」「高制御性vs. 高生産性」「クラウド特性」「アーキテクチャ要件」「機能性」「経済面の目標」の7つの留意点である。以下、それぞれのポイントを順に掘り下げていく。
プロバイダー管理vs. ユーザー管理 ~そのアプリはコアかノンコアか?~
厳密にはaPaaSの概念にシステムインフラは含まれないが、実際にはaPaaSはシステムインフラと一体になった形で提供される。したがって、ミドルウェアを含めたシステムインフラの運用管理をプロバイダー側に任せるのか、それともユーザー側に残したいのかがベンダー選定の重要な分岐点となる。
自社ビジネスにとってそのアプリケーションがノンコアである場合、システムインフラごとクラウドベンダーに保守運用を移管することで、コスト削減をはじめとする大きなメリットを得ることができる。
反面、そのアプリケーションが差別化の源泉となるコアである場合、オンプレミスで行ってきたようなハードウェアやミドルウェアの詳細なチューニングを、パブリッククラウドのaPaaSに反映することはできない。引き続き自社IT部門を保守運用の主体として残すことが可能なプライベートaPaaS (CEAP)を選定することになる。
開発言語/フレームワーク ~スキルセットによっても選択肢が絞り込まれる~
アプリケーション開発で利用する言語やフレームワークなど、自社が保有するスキルセットによってaPaaSの選択肢が絞り込まれるケースがよくある。
たとえば自社内にプロフェッショナルな開発体制を擁している場合、JEE、.NET、Spring、Ruby on Railsなど3GL(第三世代言語)をサポートし、複雑な開発にも対応できるaPaaSを選定することになる。一方、簡単なアプリケーション開発については業務部門のユーザーに移管している場合、ノンプログラミングの4GL(第四世代言語)をサポートしているaPaaSが望ましい。
もちろん、プロフェッショナルとユーザーの双方によるアプリケーション開発が求められるケースもある。そうした中では、言語だけでなくアクセラレータ/エコシステムの有無、システム開発ライフサイクルをサポートするツールセットのあり方、コンポーネント再利用性、既存スキルの活用、チーム開発の体制など、さまざまな条件を総合的に勘案して自社に最適なaPaaSを選定する必要がある。
高制御性vs. 高生産性 ~システムインフラの透明性は必須か?~
ビジネスにとってコアとなるアプリケーションを開発する際には、最適なトランザクション制御やチューニングなど細かな設定が必要となる。ミドルウェアを含めたコンフィグレーションの透明性、すなわちシステムインフラの高い制御性が求められる。
一方、タイムツーマーケットを重視したアプリケーション開発の生産性を追求するならば、むしろシステムインフラに依存せず、専門的な開発スキルを問われないことが重要な要件となる。標準サービスの利用によって自ずと制御性は低くなる。
【次ページ】最終的に行き着くのはコストの正当性
関連タグ