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  • 2017/03/29 掲載

「ドイツらしくない都市」ベルリンで、スタートアップのエコシステムが成長するワケ

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筆者が拠点を置くドイツ・ベルリンは、スタートアップシーンをここ数年で急成長させてきた都市だ。先日発表された世界各都市のスタートアップエコシステムを比較する「グローバルスタートアップエコシステムレポート2017」では、50カ国100都市を調査した結果、ベルリンが第7位にランクインした。昨年の9位からさらにランクを上げ、欧州内では3位のロンドンに次いで2位である。音楽配信サービスのSoundCloudや、食材定期購入サービスのHelloFresh、欧州内の交通手段の検索サービスGoEuroなどの個性的なスタートアップは、なぜ「もっともドイツらしくない都市」と言われているベルリンに集まり、成長を遂げているのだろうか。
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2016年7月に開催されたベルリン最大のテックフェスティバルTech Open Air。東ベルリン時代にラジオ放送局として使われていた建物に1万名近くが集まった
(筆者撮影)


スタートアップのエコシステムを構成する要素

 新たなビジネスモデルを築いて急成長とエグジットを目指す「スタートアップ」。その生態系を指す言葉として「スタートアップエコシステム」という言葉を最近よく耳にするようになった。

 エコシステムという言葉が用いられるのは、スタートアップの成長を支えるために、さまざまな要素が必要となるからである。では、エコシステムはどのような役割を担う人や組織で構成されているのだろうか。

 まず、当然ながら新しいビジネスのアイデアを元に起業をする意思を持った起業家(ファウンダー)が不可欠だ。そして、それを製品として形づくっていくエンジニアやデザイナー。マーケターやセールス担当者など、各分野のエキスパートも成長段階に応じて必要になる。

 さらに、とりわけ初期のスタートアップに投資するエンジェル投資家や、ある程度成長した段階で投資するベンチャーキャピタル(VC)など、事業の各ステージに出資する投資家もスタートアップの成長には欠かせない。

 こうした起業家、各分野のエキスパート、投資家、さらにエコシステムが成熟すると、起業環境を整えるためにビザや税金などに関する政策をつくる政策担当者なども参加するようになる。

 これらのさまざまな要素がお互いに支え合いながら成長していくのが、スタートアップのエコシステムだ。このエコシステムが成熟していればいるほど、起業家は事業を成長しやすくなるので、新たな起業家をさらに惹き付け、好循環が生まれるのである。

スタートアップシーンが盛り上がるベルリン

 世界でも最も大きく、かつ成熟しているエコシステムの規模を有するのが、IT産業の長い歴史を誇るシリコンバレーだろう。

 しかし、アイデアとパソコン1台で簡単に起業ができるようになったここ10年ほどで、世界各地の都市でスタートアップシーンが成長していった。筆者が拠点を置くベルリンは、まさにITスタートアップシーンをここ数年で急成長させてきた都市である。

 先日発表された世界各都市のスタートアップエコシステムを比較する「グローバルスタートアップエコシステムレポート2017」では、50カ国100都市を調査した結果、ベルリンが第7位にランクインした。昨年の9位からさらにランクを上げ、欧州内では3位のロンドンに次いで2位である。

 スタートアップエコシステムの成熟度を図る重要な指標、スタートアップへの出資額に関しても、ベルリンはここ1、2年で大きな成長を示している。

 ドイツ全体資金調達の件数で見ると、2015年の417件から2016年は486件と増加。欧州の国別の資金調達件数では、フランス、イギリスに次いでドイツが3位に入っている。

 注目すべきは、2016年のドイツのスタートアップへの投資486件のうち、実に202件がベルリンのスタートアップによる資金調達であるという点だ。

 ロンドンやパリといった経済規模の大きな都市に資金が集まるのは簡単に想像できるかもしれないが、ドイツの場合は、経済都市フランクフルト、ミュンヘン、ハンブルグなどではなく、ベルリンなのである。

 そんなベルリンには、現在2000前後のスタートアップがいると言われている。

 特に有名なスタートアップとしては、音楽配信サービスのSoundCloudや、昨年8800万ドルという大型資金調達をした食材定期購入サービスのHelloFresh、欧州内の交通手段の検索サービスGoEuroなどがあり、このほか多くの新進気鋭のスタートアップがベルリンを拠点に事業を成長させている。

なぜベルリンは「ドイツらしくない都市」なのか

 ベルリンといえば、ドイツの首都機能があるという以外に目立った特徴が思い浮かばないかもしれないが、実は「もっともドイツらしくない都市」であるということに注目すべきである。

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ベルリンの「元祖コワーキングカフェ」ともいえるSankt Oberholzで、毎月第二火曜日の朝に開催されているミートアップ「Silicon Allee」
(著者撮影)


 ベルリンは、「堅実でかっちりしている」というドイツのイメージから大きく離れ、ヒップで国際的、アーティストに好まれる街なのだ。

 こうしたベルリンの性格の背景には、ベルリンがくぐり抜けてきた特殊な歴史が影響している。第二次世界対戦で街の大部分が大きなダメージを受けたあと、冷戦中40年近く東西に分断されていた。

 東ドイツ内の孤島となった西ベルリンには大きな産業が根付かず、ベルリンの壁が崩壊して東西ドイツが統一したあともカオスな時期が続いた。安定した職を求める人がベルリン外の都市に流出したかわりに、ベルリンには安い家賃でアート活動ができる国内外のアーティストや学生が集まった。

 実験的でクリエイティブな若者は、旧東ドイツ側のベルリン東部に集まり、放置されていた建物を利用してアートシーン、クラブシーンを盛り上げていった。

 こうした背景もあり、ベルリンは自動車産業が根付くミュンヘンなどの南ドイツの都市やメディア産業が栄えるハンブルグなどに比べると「貧乏」であり、失業率・貧困層の割合も比較的高い。

 逆に言えば、家賃や物価など生活にかかるコスト全般が低い。こうした特徴が、ベルリンがスタートアップ都市としての急激に成長を遂げる上で大きな役割を担ったのである。

【次ページ】スタートアップを惹きつける都市「3つの条件」
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