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  • 2016/12/27 掲載

TBS「逃げ恥」ヒットから学ぶ、専業主婦(夫)の「正当な対価」は計算できるか

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TBS系列で放送されたテレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ(以下、逃げ恥)』が、12月20日に最終話の放送を終えて、視聴率は堂々たる20.8%を記録した。本作はなぜここまでのヒットしたのか。さまざまな要素があるが、ひとつに挙げられるのが社会的テーマ設定の鋭さである。同作は「結婚生活において専業主婦/夫は労働に従事しており、正当な対価をもって報われるべきだ」という感覚をテーマとすることで、今日の社会生活における困難を描き出すことに成功している。
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逃げ恥ヒットで考え直す、主婦/夫業を「企業活動」に例えた場合の対価
(© one – Fotolia)


「逃げ恥」ヒットで注目すべき未婚率のデータ

 「逃げ恥」で語られた重要なテーマのひとつが「専業主婦・夫は労働に従事しているものであり、正当な対価をもって報われるべきである」という発想だ。同作では「この考えは、契約結婚という発明によって、一体どこまで実現できるのか」ということを思考実験した格好のコメディ、という作りで、たいへん面白かった。

 逃げ恥におけるこのテーマの重要性は、最新の国勢調査を参照すると腑に落ちる。我が国において、平成に入って以来右肩上がりを続けていた未婚率が、平成27(2015)年には上げ止まりを見せている。しかも、30代に関しては低下しているのだった。

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年代別未婚率の推移
(出典:統計局発表データから作成)


 現在、この日本社会においては、大きく分けて3つの結婚観のモデルが存在する。

(1)昭和的結婚観
 夫が働き、妻が支えるという昔ながらのモデルである。子供は2~3人、保育園ではなく幼稚園に通わせる。逃げ恥の作中におけるキャラクターでは、日野(藤井隆)がこれにあてはまる。

(2)平成前期的結婚観
 結婚はせずに(あるいは結婚したとしても、子供は作らずに)社会において自己実現することを優先する、という価値観である。風見(大谷亮平)は、作品序盤においてはこの主義が当然である、と考える存在として描かれていた。そして言うまでもなく、百合(石田ゆり子)はこの象徴である。

(3)平成後期的結婚観
 出産やキャリア選択という観点で、平成前期的結婚観が必ずしも幸福につながるわけでもないことを知り始めた世代である。早々に結婚・出産を迎え、イクメンの名において新たな夫婦像を生み出そうとしている世代である。

 逃げ恥が描いていたのは「女性はこれまでのような『独身・バリキャリ』では必ずしも幸福は得られないので、『早めの結婚』が望ましい。しかし、それがすなわち理想の生活につながるかというと、そうとも言い難い」という歯がゆさだ。これらのモデルが提示される中で、どの道を選択することが幸福につながるのかには正解がなく、それゆえに議論が白熱するテーマのひとつであったといえる。

主婦/夫業の対価はどの程度が妥当であるか

 主婦/夫業の対価はどの程度が妥当であるか。これは非常に困難な問題である。主婦/夫業における貢献をどうして金額換算できないのかといえば、その労働が、「労働力の再生産活動」であるからだ。

 平匡(星野源)とみくり(新垣結衣)との関係を、フリーランサーが業務委託契約を結んでいるのだと理解するなら、それは給与ではなく売上であって、本来であれば確定申告し、税金を国におさめようということになる。しかしそうではなく、このふたりはあくまで夫婦という共同体であり、そこにあくまで「雇用主と従業員」というフレームを当てはめることはできないのかと、本作は主張している。

 たとえば、企業組織が営業担当者を雇用して給与を支払うのは、それ以上の売上を外から持ってくるからであって、100万円の経費が1000万円の売上にかわるという前提で、そこに給与を支払う原資が存在しており、かつ適正な販管費率をもとに貢献額を算定できる、という構造をもとにしている。

 主婦/夫業、つまり「労働力の再生産活動」は、夫婦を企業組織になぞらえると、そのような直接部門ではなく、総務・経理的な、間接部門のカテゴリに該当する。

 逃げ恥においては、平匡とみくりが夫婦を雇用主と従業員になぞらえたことで発生するさまざまな矛盾をコミカルに描いていたわけだが、最大の矛盾は、間接部門だけの企業など存在しない、ということだ。制作者もおそらくそこに自覚的であったからこそ、当初は作中において「家事代行サービスの費用との比較」を用いてその月額を算出していたが、最終話では主人公のみくり(新垣結衣)自身が、「最低賃金(+愛情)」が妥当であるとの結論を主張するに至ったわけだ。

【次ページ】平匡・みくりのように自分自身で幸福論を立ち上げよ
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