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  • 2016/09/30 掲載

欧州ベンチャー都市投資件数ランキング:ヨーロッパ上位5都市の異なる特色とは

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ベンチャー企業はシリコンバレーに代表される米国企業が有名ですが、欧州発のベンチャー企業も負けていません。例えば、欧州で生まれたSkypeは全世界で使われるサービスへ成長しました。欧州のベンチャー投資は過去5年で年率21.5%の成長を見せています。EU離脱決定後もベンチャー投資が堅調なロンドンに、パリやベルリンといった大都市が新たな起業に盛んな都市として挑戦する構図があります。都市ごとに異なる特色を持った欧州ベンチャーの最新事情を紹介します。
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ヨーロッパ5都市別にみるベンチャー投資の特色


欧州ベンチャーの持つ3つの強み

 イギリスのEU離脱、ギリシャ経済危機、高止まりする失業率。欧州経済は厳しい状況が続いています。しかし、経済が停滞する今だからこそ期待が集まるのは、新しい技術とアイデアで雇用を生み出し、経済を活性化させるベンチャー企業です。欧州では、シリコンバレーを中心とした米国とは異なる起業の環境を築き始めています。

 欧州のベンチャー投資は過去5年で21.5%の増加を見せ、2011年の50億ドルから2015年の135億ドルまで成長しました。2015年の米国ベンチャー投資は724億ドルであり、欧州と比べて5.4倍の規模を誇りますが、増加率では欧州の方が10ポイント以上高くなっています。

 欧州生まれのベンチャー企業からは、既に世界的な成功例が見られます。欧州の小国エストニアから生まれたSkypeは、マイクロソフトに買収され、世界中で利用されるサービスへ成長しました。日本参入が噂される音楽配信サービスSpotifyはスウェーデンで創業され、1億人以上のユーザーを抱えます。ソフトバンクが買収及び売却したことで話題になったゲーム会社スーパーセルは、フィンランドで設立され、クラッシュ・オブ・クランなどの世界的なヒット作を開発しました。

 欧州ベンチャーの基となっているのは技術力の高さです。WIPO(世界知的所有権機構)などが発表したグローバル・イノベーション・インデックス2016では、上位10か国の内、8か国までが欧州各国です。(スイス、スウェーデン、イギリス、フィンランド、アイルランド、デンマーク、オランダ、ドイツ)16位の日本と比べると、欧州全体の水準の高さが理解できるでしょう。

 ヨーロッパで成功したベンチャー企業の特色として「グローバル展開」が挙げられます。一国では経済規模がそれほど大きくないため、どのベンチャー企業も始めから世界中にサービスを広げることを意識しており、ビジョンの大きな会社が多いと言えます。Skypeの例から分かる通り、シンプルで誰でも使いやすいサービスに強みがあります。

 欧州と米国の違いとして、既存企業との関係性があります。米国では既存の業界慣習や価値基準を打ち破る「Disruptive」なベンチャー企業が賞賛を集めます。例えば、配車サービスUberはタクシー業界を変え、民泊仲介を行うAirbnbはホテル業界を変革する、といった具合です。一方で、欧州の場合、既存企業と協業したり、買収されたりして、新規事業と既存事業の融合を図る傾向が見られます。スイスで生まれたバイオベンチャーが世界的製薬企業に買収されるというシナリオが代表例です。

 欧州で起業するメリットとしてコストの安さが指摘されています。起業する際には少ない資金が尽きる前にビジネスモデルを確立する必要があるため、特に、人件費を抑える必要があります。シリコンバレーを始めとして、米国では賃金高騰が叫ばれるのに比べ、ベルリンに代表される欧州の都市では人材の優秀さの割りに賃金が低い傾向があります。経済危機によって物価の上昇が少ない点が、起業においては有利に働きます。

 欧州の中でもロンドンが、これまで起業やベンチャー投資をけん引してきました。近年ではベルリンやパリが新たな欧州ベンチャーのトレンドを作っています。都市ごとに異なる特色に着目すると、より欧州ベンチャーの流れを理解できるようになるでしょう。まずは、欧州ベンチャー5都市の投資件数をみてみましょう。

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欧州のベンチャー投資案件数(2016年1月~8月)

欧州ベンチャー5都市の投資件数

ロンドン:EU離脱決定後も堅調なベンチャー投資
 2016年に入り133社16億ドル以上のベンチャー投資がなされ、欧州屈指の起業環境を保っています。コンパス社が発表したグローバル・スタートアップ・エコシステム・ランキング2015においても、世界で6位、欧州では1位に輝きました。強い金融業に後押しされ、欧州や世界へ展開するベンチャー企業が増えています。特に、着目される分野がフィンテック(金融ベンチャー)、メディア、Eコマースです。音楽配信サービスLast.fm、短期融資Wongaなどが知られています。

パリ:起業家支援プログラムの充実で盛り上がりを見せる
 イギリスのEU離脱後、ヨーロッパのベンチャー企業の中心として期待される都市の一つがパリです。大手通信会社オレンジが起業家支援プログラムを設立したり、5000社のベンチャー企業が一堂に会する見本市Viva technologyが開催されたりと、起業の盛り上がりは目を見張るものがあります。広告配信や通信に強く、動画配信サービスDailymotionなどが代表的企業です。

急速にベンチャー投資が伸びているベルリン

ベルリン:ロンドンを超えつつあるベンチャー都市
 2015年のベンチャー投資額は20億ドルを超え、ベルリンは投資額ベースでは欧州一のベンチャー都市として注目を浴びました。首都にも関わらず生活コストが低い、英語が通じるため世界中から人材を惹きつける、音楽を中心とした若者に好まれる文化がある、等の理由によって起業家が集まるようになりました。インキュベーターとして知られるロケット・インターネットに加え、起業家支援プログラムも充実しています。音楽配信のSoundCloud、モバイルゲームのWooga、タスク管理アプリWunderlist(6Wunderkinder社)などがベルリンで設立されました。

ストックホルム:世界的サービスを次々と生む北欧の技術都市
 スウェーデンの首都ストックホルムはITベンチャーで有名な都市になりました。Spotifyに加え、キャンディ・クラッシュで知られるKingもストックホルム出身です。これらの優れたサービスがMicrosoftなどの世界的企業に買収され、同市に富をもたらしてきました。人口980万人の小国であることを利用し、様々な新規事業、実証実験に積極的な文化が起業を促しています。通信、企業向けソフトウェア等に強みがあります。

バルセロナ:モバイルに強く、文化的魅力が人材を引き寄せる
 スペイン第二の都市バルセロナは観光業だけで生きる都市ではありません。携帯電話の見本市モバイル・ワールド・コングレスが毎年開催されるように、モバイル技術に強みがあります。停滞するスペイン経済を活性化させるためにも、自治体や大手企業の支援のもと、ベンチャー企業による雇用創出に期待が集まっています。旅行予約サイトeDreams、医師検索サイトDoctoraliaなどが知られ、同じスペイン語圏である南米へのサービス展開が活発です。

【次ページ】健全な競争によって起業家と投資家の成長を促す
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