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  • 2016/09/02 掲載

為末 大氏が「限界を突破したければわがままになれ」と語る理由

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リオ五輪でのリレー400m銀メダルは、多くの日本人に驚きと感動をもたらしてくれました。日本人が考える「限界」を突破する快挙だったことは間違いないでしょう。なぜ一流のアスリートは「限界」を超えることができるのでしょうか。スプリント種目の世界大会、日本人初のメダル獲得者で、このたび『限界の正体』を上梓した為末大氏が「限界を突破する方法」を解説します。
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為末 大 氏
1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2016年7月現在)。2012年、25年間の現役から引退。現在は、自身が経営する株式会社侍のほか、一般社団法人アスリートソサエティ、株式会社Xiborgなどを通じて、スポーツと社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。 著書に、『走りながら考える』(ダイヤモンド社)、『諦める力』『逃げる自由』(プレジデント社)など多数ある。


わがままな人ほどモチベーションが続く

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限界の正体~自分の見えない檻から抜け出す法
 アスリートにとって、限界とは記録だけでなく、継続についても存在します。

 記録の限界とは、陸上競技の場合なら、走、跳、投の結果である記録に対する限界です。一方、「継続の限界」とは、選手生活の長さや、長期にわたるモチベーションの維持など、期間や年数に対する限界です。

 以前、何人かのオリンピック選手に、目標との向き合い方についてお話をうかがったことがあります。

 長く競技を続け、結果が出せる選手とそうではない選手では、目標との向き合い方に違いがあるように感じました。目標を「変更しない人」と、「変更することを繰り返す人」では、前者のほうが選手生命が短く、後者のほうが選手生命が長いと感じています。

 継続の限界値が高い人の特徴は、スケジュール変更が多いということです。

「練習をしようと思ってグラウンドに出たけれど、調子が出ないので途中でやめる」
「試合に出るために会場に来たけれど、ケガが怖いから直前でキャンセルする」
 といったことがよくあります。

 もちろん、サボっているわけではありません。考えがあってのことです。

 北京オリンピックで銅メダルを獲得した男子4×100メートルリレーで、最終走者を務めた朝原宣治さんは、スケジュール変更をすることで有名でした。

 朝原さんは、少しでも身体に異変を感じれば、すぐに練習や試合をやめる人だったのです。

 途中ですぐやめるので、傍から見たら、わがままと思われたこともあったようですが、そうではありません。身体の違和感や感覚に、素直に従っているだけです。

 朝原さんは、練習や小さな試合をキャンセルしても、オリンピックや世界陸上といった大きな大会では、一度も外したことがありません。

 以前、朝原さんと対談をさせていただいたとき、こう話されていました。

「僕は大きい大会で結果を出すことを考えていたので、ひとつひとつのレースにはそんなにこだわらず、途中でやめるという決断ができた。ゆらり、ゆらりと、ぬらりひょんみたいにやってきたからこそ、36歳まで現役を続けられたんです」

スケジュールを変更する勇気はあるか

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「柔軟性こそが、継続力を高めるといえるでしょう」
「ひとつの試合で勝とうが、負けようが、たいしたことではない。大きい大会で勝てばいい」

 朝原さんが、そう考えるようになったのは、ドイツに拠点を移してからです。

 ドイツに留学して3年目、朝原さんはケガをします。はじめはお尻の筋肉の小さなケガでしたが、だましだまし練習を続けた結果、1年半後には骨折をしてしまいます。そのときの経験から、少しでも違和感を覚えたら、やめるという潔さが身についたといいます。

「その日の目標をまっとうしないと気がすまない人」 「決めたことをきちんと守らないと許せない人」

 そんな人は、実は継続ができずに、モチベーションが長続きしません。

 かっちりと決めすぎる選手の競技人生は短く、一方で、こんなことを思いついたから、やってみようと柔軟に考えられる選手は、息が長い気がします。

 今日はこれをやろうとはじめてみたけれど、今がタイミングじゃないなと思ったら、無理をしない。昨日の自分と、今日の自分と、明日の自分が同じだとはかぎらないのだから、そのときの自分の調子や感情に合わせながら、やることを変えていく。

 こうした柔軟性こそが、継続力を高めるといえるでしょう。

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