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Google(以下、グーグル)の開発した囲碁ソフト「AlphaGo」が、欧州のプロ棋士に勝利したことが話題になっている。将棋や囲碁のような複雑なゲームにおいて、AIが人間に勝つことは遠い未来の話ではなくなった。だがそのせいか、近年は「人がAIに仕事を奪われる」という評論を、Webメディアを中心に日々目にする。このあまりにも雑な煽りに振り回されることなく、人間とAIが共存する道を考えてみたい。
グーグルの囲碁ソフトがプロ勝利したという事実のインパクト
ここ数年、コンピュータ将棋ソフトとプロ棋士の対局を企画してきたドワンゴの演出もあいまって、人工知能(AI)の活躍が話題となっていた。しかし、今回報道されたグーグルが開発した囲碁ソフト「AlphaGo」のニュースは、世界的にこれを上回る驚きを与えているようだ。
囲碁ソフトがプロ棋士に勝ったことがなぜそれほどまでに衝撃的だったのかといえば、大きく2つの理由がある。
1つは、囲碁というゲームの性質上、チェスや将棋とは似て非なるものであり、単純にこれらのジャンルで成功した方法論を応用しても、強いソフトは作れないことが判明していたため。もう1つは、現状アマチュアレベルの囲碁プログラムに何らかのブレイクスルーがなければプロ級にはならないだろう、という話が定説であったためだ。
将棋ソフトの台頭というトピックに対して、対応に遅れをとっていた将棋のプロ棋士たちを、一部のコンピュータ将棋ファンは「先見性なし」として厳しく批判してきた。しかし、コンピュータ将棋ファンですらも「囲碁はまだまだこれから」という定説を受けて入れてきたわけで、今回のニュースはその分、衝撃度が強い。
AI研究の歴史は繰り返される
AI関連の研究全般においては、必ずといっていいほど、次のような歴史をたどる。
(1)研究対象となる思考が「アルゴリズムとして定式化できる」と考え、それをプログラムで再現しようとする
(2)期待していた内容とは全然違う振る舞いをして、話にならない
(3)そこで、コンピュータの特性に適した、人間とは異なるアプローチで思考をさせる方法を開発する
(4)その結果、パフォーマンスとして人間を凌駕する実績を挙げる
近年のコンピュータ将棋ソフトのブレイクスルーも、まさにこれに当てはまる。その中核をなしたのが「局面の良し悪しを数値化し、指し手を決定する『評価関数』を、機械学習によって向上させる」という思考方法である。
グーグルのブログによると、囲碁ソフトAlphaGoでは、「モンテカルロ木探索」と「ディープニューラルネットワーク」の技術が採用されている。このモンテカルロ木探索、実は日本でも2008年頃から注目され、囲碁ソフトの進歩に大きな成果を挙げていた方法論である。
特に、最近のディープラーニング系のニュースは衝撃度が強い物が多い。機械翻訳や画像認識といった、「人間の思考の最後の牙城」的なジャンルで、次々と驚くべき成果が発表されている。
そうなると、ブレイクスルーの種は既出の方法論であったわけで、「何らかのブレイクスルーがなければプロ級にはならないだろう、という定説」は覆る。その意味では、今回のニュースの本質は、「人間がその気になれば、たいていの人間の思考を凌駕するソフトウェアを開発できるということが証明されつつある」ということかもしれない。
近年、「人がAIに仕事を奪われる」という評論を、Webメディア界隈で目にしない日はない。「人間は、その気になればたいていの人間の思考を凌駕するソフトウェアを開発することができる」は事実であり、今後ともその傾向は加速こそすれ、後退はしないだろう。とはいえども、それはあまりにも雑なミスリードというものである。
【次ページ】「人の仕事がAIに奪われる」という雑な煽りへの反論
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