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  • 2015/05/27 掲載

日本の製造業、「技術はあり、世界から信頼も高いが、過去を捨てて新しい未来を探せ」

豊田エンジニアリング、三越伊勢丹ほか

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先日、東京・ザ・プリンスパークタワー東京で、一般社団法人 アジア経営者連合会主催による「アジア経営者ビジネスサミット2015」が開催された。その「製造業 日本の底力 ~日本品質とはこれだ~」と題されたスペシャル・セッション2では、三越伊勢丹ホールディングス、経済産業省、由紀精密、豊田エンジニアリング、VTCマニュファクチャリング・ホールディングスから登壇者が集い、それぞれの観点から「日本の底力とは何か」を発信した。

年間3,600足売れ続ける紳士靴、その陰に三越伊勢丹が誇る3つの力

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三越伊勢丹ホールディングス セールスマネージャー
近藤 詔太氏
 最初に講演に登壇したのは、三越伊勢丹ホールディングス セールスマネージャー 近藤 詔太氏である。同氏は10年以上にわたって紳士靴のバイヤーを務めていた。三越伊勢丹には、年間3,600足売れ続けているロングセラーの紳士靴があるという。

 革靴作りに長い歴史を持つ日本のメーカーが、グッドイヤーウェルト製法という長持ちするデザインで日本人の足型に合わせ製造。フランス製牛革を素材にしながらも、1足3万円台という値ごろな価格を実現した。この紳士靴を例に、三越伊勢丹の商品が売れ続ける理由には、3つのポイントがあると同氏は語った。

 1つめは、顧客のニーズを把握する力だ。三越伊勢丹には国内外から多くの顧客が訪れる。それはすなわち、多くの声を聞けるということに他ならないと近藤氏は語る。その声を販売員が聞き、バイヤーに伝える。それによって、顧客が望んでいる商品を仕入れることができるというのだ。

 2つめは、パフォーマンスの高い商品を提案する力という。バイヤーはよい製品を作るために、国内外を現地調査する。そのようにして数多くの情報を仕入れるうちに、皮革ならフランス製がよい、作りはグッドイヤーウェルト製法がよい、製造は革靴作りに長けた日本のメーカーがパフォーマンスが高い、となって、その組み合わせで商品を開発することができるのだ。

 3つめは、一貫したプロデュースだ。顧客のニーズを把握し、それをモノづくりに生かし、販促計画を立て、店頭で紹介し、顧客の声を聞いてそれを反映する。このPDCAを回すうちに、たとえ最初のシーズンはふるわなくても、これをしっかり繰り返すうちに完成度の高いものができあがると同氏は語った。

 三越伊勢丹は2015年、「this is japan.」という企業メッセージを掲げている。これは三越伊勢丹グループの「こころがまえ」の合い言葉で、日本ならではの五感を働かせたモノづくり、品揃え、おもてなしを意味しているという。これらをおろそかにしなければ、まだまだ底力を発揮できるのではないかと、近藤氏は日本の未来に期待をかけた。

過去の栄光を追い過ぎている地域経済、顧客の声を聞いて変化対応を

 続いては、経済産業省 製造産業局 生物化学産業課長 江崎 禎英氏が演壇に立った。同氏は前任が岐阜県商工労働部部長であったことから、この講演では地域経済の観点から日本の競争力を論じた。同氏が投じたのは「日本の底力というが、このままで本当に世界に勝てるのか」という直言だ。

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経済産業省 製造産業局 生物化学産業課長
江崎 禎英氏
 日本の競争力の原点は、“徹底した分業化、効率化により、高品質で低価格のモノを大量に作れる”ことだった。高品質を実現するのは当然で、経営者の仕事はいかに昨日より今日、今日より明日コスト削減できるかだった。これで高度成長期に我が世の春を謳歌したのだが、今や世の中は大きく変化しており、もはや大量消費の時代ではない。コスト削減の行きつく先は地獄とわかっていながら、いまだ多くの業界が過去の栄光の延長線上でビジネスを続けていると指摘した。

 同氏は具体的に例を挙げたのは、かつて岐阜が栄えた繊維業界だった。定番のセット売りスーツ販売のルーツは、戦時中パラシュートを大量にさばくために考案されたビジネスモデルにあるという。5つ発注しても2つ売れると収益が確保できるため、4つめ、5つめの商品の扱いは粗雑になる。まさにバーゲンがこの発想で、そのためにどうしても生産見込みが甘くなる。

「顧客を見ていないから作り過ぎる。投げ売りをするのは自らの商品価値を毀損する行為だ」(江崎氏)

 と、江崎氏は手厳しく批判した。同様に江崎氏は“客は来るもの”として自らは動かない陶磁器業界、団体客依存体質が抜けない観光業界の例も挙げた。

 ビジネスモデルの変革に取り組んで成長に転じた事業者もある。同氏が紹介したのは美濃の家具製造事業者の例だ。製造が面倒だとして他社が受けない高級家具の規格外生産を始めたところ、日本中から注文が殺到した。向こう3年の生産分が予約で埋まっているという。また、家業の質屋をついだ20代の女性経営者は、ジュエリーのネット販売を始めた。実物を見て意図したものと違うという事態に備えて、候補商品3つを選んでもらって発送し、その中の1つを選んで他は送り返してもらうというシステムにした。そうしたら大評判になったという。「顧客の声を直接聞く中から新しいビジネスモデルは生まれる」と、江崎氏は語る。

 講演の終わりに、同氏は華僑協会で聞いた話を披露した。「中国人は口に入れるものと肌につけるものは日本製であることを望む」この言葉が意味していることは製品に対する絶対的な“信頼”だ。江崎氏はこう結んだ。

「この国に対する信頼性は高い。これを糧に皆さんが時代に合わせて変化対応すれば、日本の未来は明るいだろう」(江崎氏)

【次ページ】 技術には国境がなく、通貨や土地よりも価値がある
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