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  • 2012/11/06 掲載

新しい資本・業態規制のもとにおける機関投資家のチャレンジ:グローバルな課題と対応

アクサ生命、三井住友信託ら、現場の識者が語る

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金融・ソブリンをめぐる危機を受けた規制強化の流れの中、金融機関はいかに対応していけばいいのだろうか。9月27日に開催された「金融リスクマネジメントフォーラム2012」において、ソシエテジェネラル証券会社の酒井重人氏がモデレーターをつとめたパネルディスカッションでは、金融機関に規制アドバイザリーサービスを提供する立場より新日本有限責任監査法人の和合谷與志雄氏、保険業界の声としてアクサ生命の松山明弘氏とキャピタスコンサルティングの森本祐司氏、銀行業界からは三井住友信託銀行の多良康彦氏の4名のパネリストが本音で語りあった。

現在進行形の金融規制と金融機関のチャレンジ

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(左から)アクサ生命保険 執行役員 チーフインベストメントオフィサー 松山明弘氏、三井住友信託銀行 リスク統括部 マーケットリスク統括グループ長 多良康彦氏、キャピタスコンサルティング 代表取締役 森本祐司氏、新日本有限責任監査法人金融アドバイザリーサービス部 プリンシパル 和合谷 與志雄氏。(モデレータは、ソシエテジェネラル証券会社東京支店 グローバルマーケッツ本部 副社長・マネージングディレクター 酒井重人氏)
酒井氏 金融業界では、バーゼルⅢ、銀行業務範囲制限(ボルカールール、リテールリングフェンス)、RRP(再建・破綻処理計画)、ストレステスト、OTCデリバティブ規制、シャドーバンキング規制などの規制内容に関する議論が進行する一方、保険業界では、ソルベンシーⅡの導入時期、保険負債評価の割引率や、非流動性プレミアム(illiquidity premium)の議論がさらに進められている。このパネルでは、こうした国際規制、各国規制とその域外適用などの現在の状況を、改めて客観的に概観するとともに、機関投資家の立場から、運用やリスク管理の実務面での具体的アプローチの方法を、可能な範囲内で議論させていただきたい。

 我が国の経常収支の黒字幅の縮小が進み、財政問題が狭いパスの中で動いていく中で、機関投資家は、どう自らをプロテクトできるのか。信用リスクへの投資、運用の分散等は適切にどうなしうるか、長期の負債をどう管理するか、などなどチャレンジが続く。

 このパネルでは、国際規制あるいは域外適用も含む各国規制の現状を改めて客観的に鳥瞰するとともに、運用やリスク管理の実務面での具体的なアプローチの方法を、さまざまな角度からオープンに議論したい。まず、パネリストの皆さまよりそれぞれの視点からのテーマを述べていただきたい。

和合谷氏 まずOTC(店頭取引)デリバティブ規制について。今年末までに一定の取引の決済の中央清算機関(CCP)集中義務を達成すべく、各国が制度化を進めている。わが国では金商法の改正が行われ、プレーンバニラの金利スワップとCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)はCCP集中義務が課される。またOTCデリバティブ取引は直接金融庁に、あるいは取引情報蓄積機関を介して報告義務が生じることとなった。

 次に、G-SIFIs(グローバルにシステム上重要な金融機関)への規制では、(1)金融機関に対する実効的な破綻処理法制、(2)RRP、(3)追加資本賦課、(4)高密度の実効的な監督という4つの観点で国際的な最終案の議論が行われている。(4)については9月に出たばかりで、(2)についても今年中に予定されている。

多良氏 今般の国際金融規制強化の影響をまとめると、世界の銀行を自己勘定投資や過度なレバレッジを効かせた業務から伝統的な預貸業務へ回帰させ、結果としてROE(総資本利益率)に低下圧力をかけることと言えよう。これは一種の「日本化(Japanization)」とも言える。「日本化」は、欧米銀行が公器としての性格を強める方向で議論が進んでいる。逆に元来公器の性格の強いわが国の銀行は、もう少し利益追求にセンシティブになることが求められる局面である。

 邦銀が、ROA(総資産利益率)を高めるためには国内での資金業務だけでは限界がある。当社の戦略は信託化とグローバル化である。信託機能を発揮したフィービジネスの拡大と海外業務展開に活路を見いだす方向だ。この戦略的な業務拡大はRRPの策定という規制強化とも関連づけられると考えている。RRPにおいては重要な企業価値の特定とその維持、グローバルなリスクの連関性・伝播の構造など自社のビジネスモデルとそのリスクについての深い考察が求められるからである。規制を規制のみで終わらせず、経営判断のツールへと昇華する視点も必要だろう。

森本氏 私からはソルベンシーⅡの概況、その直近の議論動向、わが国の状況につき述べたい。

 ソルベンシーⅡの基本的枠組み(オムニバスⅡ)は今年11月に採択される予定(その後、2013年3月に延期)。ただ、2014年1月とされていたその適用時期はさらに延びるというのが関係者の見方だ。

 継続中の議論には、市場と整合的な保険負債評価のための割引率という方向性に対する調整がある。ひとつは市場金利が存在しない超長期の保険負債の割引率の補外だ。もうひとつ、ストレス時に無リスク金利を調整しようという議論もある。

 わが国の今事務年度監督方針では、経済価値ベースのソルベンシー評価導入を目指す旨明記された。またFSAP(金融セクター評価プログラム)では、ソルベンシー評価は経済価値ベースで行われるべき、金融庁は保険会社へのERMやORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)のガイダンスを強化すべきなどの指摘がされた。大切なのは、規制の本来の意味を官民がきちんと議論することだ。

松山氏 欧州金融グループに属する日本の会社で運用に携わる立場からは、欧州の規制では負債を時価評価するが日本の規制では負債は簿価評価であるなど、両規制が整合していない点を指摘したい。現場において両規制をにらんだ最適化に努める必要がある。

 また、割引率の補外などソルベンシーⅡの未確定要素に投資戦略が振り回されるケースもある。低金利下、両規制をにらみながらリスク調整後のリターンを意識しつつ、負債のコストを十分にカバーするためには、金利リスク中心のALM(Asset Liability Management:資産と負債を総合的に管理すること)のみならずクレジットやアービトラージ(裁定取引)に着目した運用も大事だ。その他、運用にかかるストレスシナリオの精査や、保険商品開発への積極的な関与にも取り組んでいる。

【次ページ】金融危機以降の現場での取り組み
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