- 2012/04/04 掲載
営業支援システムに対する警鐘 ――真に拡販に寄与するシステムを構築するために(2/2)
ここで、「ハイパフォーマーは自分のノウハウを正しく認識していない」という前提に立てば、最初に聞いたノウハウのタイトルは聞き流し、実践事例を聞くことになる。
たとえば、ある顧客を訪問し、別れ際に、今日紹介していない価値ある情報が他にもあることを示して、また会うことを依頼して帰る。そして、帰ってからその顧客との議論を思い出し、顧客が自社商品を欲しがる思いに気付き、社内有識者を集めて作戦を練り、提案を準備する。そして、約束どおり再訪問し、準備した提案を行う。以降、これを繰り返すことで受注した。という事実が得られたとする。だとすると、このハイパフォーマーは、自分の力の限界を知っていることになる。
つまり、1回30分程度の訪問では、顧客の自社商品を欲しがる気持ちを引き出し、これにその場で対応することはできないと認識している。だから訪問時は、とりあえず多角的にいろいろと聞き、再訪問の約束だけして帰る。その後、面談内容をゆっくりと反芻し、また、自社の他の有識者の力も借りて提案を準備する。つまり、このハイパフォーマーが使っていたロジックは「1人で1回の訪問で受注を決めることなど無理だと認識し、訪問時は情報収集と何度か会える関係構築に集中し、訪問後にじっくり反芻し、社内の衆知を結集して提案を行い、顧客の買いたい気持ちを広げる」となる。
このノウハウの背景には、この企業が近年、M&Aにより製品数を増やし、また顧客は専門的な提案を望んでいるという特性があった。にもかかわらず、一般の営業パーソンは、昔の製品数が少なかった時の売り方、つまり1回の面談でクロージングすることを続けていたのだ。
営業支援システムの構築・導入では、「営業事務作業を軽減し、顧客訪問時間を増やす」や、「問題案件や問題営業パーソンを早く見つける」といった、常識的な拡販のロジックだけをたよりに、現場の要望や問題のみを掘り下げている例を見受ける。あるいは、既存パッケージやクラウドサービスを活用するに当たり、その背景に、どのような拡販のロジックがあるか、それが自社に適用できるかよく考えず、ただ業務プロセスをどのように適合させるかのみ検討している例を多く見る。
まず、自社の拡販のロジックを何に定めるか。そのために、どのような業務プロセスやシステム、人材育成が必要かを考えなければならない。そしてそのために、足元にある宝の山、ハイパフォーマーのノウハウと、成功事例の分析が欠かせないのである。
なお、ハイパフォーマーのノウハウ分析を進める場合、「ハイパフォーマーはノウハウを隠す」という誤解がある。弊社は、これまでに多くの企業のハイパフォーマーのノウハウを抽出体系化してきたが、ハイパフォーマーは好奇心が強く自信もあり、自分のノウハウを隠すことはない。むしろ、積極的に公開し、また、同格のハイパフォーマーのノウハウを学ぼうとする。問題は、繰り返しになるが、推進する側に、ノウハウや成功事例を抽出体系化するスキルがないことだ。
幸運なことに、コンサルティング業界や、流通業の中には、ノウハウを抽出・体系化・活用するケイパビリティを持った所がある。弊社では、これらのケイパビリティを整理し、ノウハウをマネジメントするスキル体系を構築した。本スキルには、以下が含まれている。
1. ノウハウインタビュー
ハイパフォーマーの実践事例を具体的に聞きだし、その場で拡販、利益拡大につながる普遍性のあるロジックに展開し、確認・合意するインタビュースキル。
2. ノウハウ体系化(メソドロジー)
ノウハウを、コンセプト、メソッド、プロセス、支援システムのフレームワークを用いて体系化するスキル。
3. ノウハウ継承(道場)
有能者のノウハウを一般社員に継承する、組織的なOJTスキル。
4. ノウハウ継続創造(ATACサイクル)
気付きを基に、新しいノウハウを、継続的に創造し続けるスキル。
これらのスキルを学ぶことで、宝の山を掘り当てることができる。またこのスキルがあれば、営業支援システムを継続して充実させることができる。それも、グローバルに推進できる。
グローバル企業では、各国の市場パターンごとに、さまざまなノウハウと成功事例が蓄積されている。たとえば、営業パーソンが長距離移動する国では、移動時間を利用した拡販ノウハウを持っている。このノウハウは、同様な営業活動を行う、他の国でも使える。流通チャネルの開拓が遅れていたため、早めにネット販売を始めた新興国のノウハウが、先進国で使える。そこで、各国ハイパフォーマーのノウハウ、成功事例を定期的に集め、業務プロセスやシステム、人材育成などに組み込みグローバルに展開する。これによって、強みのグローバル還流が可能となる。(参考資料:父が息子に贈るコンサルティング講座、第11回、第12回)
以上から、営業支援システムの構築には、以下のステップが必要なことが理解できる。
まず重要なことは、拡販のロジックを出し尽くし、その全体構造を知り、優先順位を明確化して、計画的な組織展開方法を決めることだ。たとえば以下のように拡販のロジックを体系的に整理することで、多くのロジックを生み出し、それぞれのロジックの関係を明確化できる。当社ではこの体系を、IBS(イノベーション・ブレークダウン・ストラクチャー)と呼んでいる。
実証も重要なステップだ。拡販効果を実証できれば、経営がまず本気になる。現場も使ってみようという気になる。活用し効果を出す執着心がなければ、新たなシステム、業務は普及しない。特に、使わなければ業務が進まない基幹系に比べ、使わなくても業務が進む営業支援システムのような情報系システムでは、その傾向が強い。そこで、ハイパフォーマーや成功事例から得られた拡販のロジックは、体系化し、一部領域で営業パーソンに教育し、試行し、効果が上ることを実証し、その上でこれを組織全体に普及するためのシステム化を行うことが必要だ。(ノウハウ体系化の参考資料:ハイパフォーマーのノウハウファイル第1回、日本が誇るCTO、フェローインタビュー第1回)
なお、マーケティング戦略の再構築は、営業支援システムからは離れるが、拡販のために重要だ。市場構造が変化しているのに、これに自社が追従できていない。競争相手が、重要なセグメントを少しづつ侵食しているのに気が付かない。これらの検討は、データに基づく分析からスタートする。ただし、闇雲な分析では答えは出ない。ここでも、優秀な営業パーソンやマネージャーの知恵が重要になる。彼らが、どのような事実に基づいて、どのような気付きをしているかを抉り出し、これを基に仮説を作ることが先決だ。ここでも、上述と同様なスキルが必要とされることは、言うまでもない。
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