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2011年の東日本大震災によって、日本の電力供給はかつてないほどにひっ迫した。直接被災した福島原子力発電所が停止しただけでなく、原発自体の安全性を疑問視する声が高まり、2012年1月末時点で稼働中の国内原発は震災前の10分の1以下だ。果たして日本の電気は本当に大丈夫なのか、電気料金の値上げは今後も続くのか、また、より効率的な電力供給を実現するためにITはどのような役割を果たすことができるのか。スマートグリッドの第一人者で、一般社団法人日本通信安全促進協会(以下、JCSA)の理事でもある、東京大学 大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻 教授の横山明彦氏に話を伺った。
より効率的で安定した電力供給を目指す“日本型先進スマートグリッド”
──先生はかねてより、日本型先進スマートグリッド(=ユビキタスパワーネットワーク)という考え方を提唱され、その実現に取り組まれてきました。まずはその概要と、日本の電気事情について、どのようにご覧になっているか教えていただけますか。
そもそもスマートグリッドは、発電事業者と需要家(=企業や家庭)との間で双方向に電気のやり取りができるように制御された電力ネットワークのことで、ネットワーク全体で電気の需給バランスを最適化し、さらに社会コストの低減を目指すものです。
一方、日本の電気事情を見てみると、情報通信ネットワークを活用した送電網の事故を監視/制御するシステムや、事故発生時の停電範囲を極小化する自動化技術は既に導入済みで、電力供給の仕組みそのものは世界的に見ても高いレベルにあるといえます。
また最近では、太陽光発電を主とした再生可能エネルギーの利用が進み、系統連系によって、一般家庭などから電力会社へ余剰電力が“逆流”する状況も増えてきています。
我々の提唱する日本型先進スマートグリッドとは、日本の高い電力供給技術を背景に、今後さらなる利用促進が予想される再生可能エネルギーを大量にスマートグリッド内に取り込み、CO2排出を削減できる環境にも優しい電力供給システムを、ITも活用しながら構築していこうというものです。
──それはつまり発電事業者だけの取り組みではなく、企業や個人も関係してくるということでしょうか。
おっしゃるとおりです。たとえば太陽光発電や風力発電の余剰電力を貯めておこうとした場合、電気事業者側で蓄電池を大量に導入すれば蓄電することは可能です。しかし蓄電池の値段はまだまだ高く、さらに数多く供給されるものでもありません。
そこで電気の貯蔵先として有効となるのが、家庭側の電気を熱エネルギーに変えて貯めることのできるヒートポンプ給湯機、あるいは今後普及が期待される電気自動車(EV)といった設備です。
太陽光発電システムなどに加えて、こうした需要家側の設備もスマートグリッドに接続し、さらに火力発電や水力発電など既存の電力供給網も含めて、統合的にコントロールすることが、全体的な社会コストの低減にもつながると考えています。
また各構成要素をコントロールするためには、その各々から制御のために必要な情報を取得する必要があります。そこでITの力を借りるのです。
日本型先進スマートグリッドとは、発電事業者だけでなく需要家も巻き込み、再生可能エネルギーも取り込みながら、ITを活用してより効率的で安定した電力供給を目指す次世代のスマートグリッドだといえます。
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