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- 2011/05/25 掲載
連続歴史企業小説「甲冑社長」 ~第三話 逆襲~
浅井長政の家臣、藤堂虎高の息子として生まれた藤堂高虎に学ぶ
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「お帰りなさいませ!ご主人さまぁ~」
「あっ、あの~こちらにメグミさんって子は居てはりますか?」
「メグミちゃんをご指名ですね、ご主人さまぁ!こちらのテーブルにどうぞーーー」
ここは秋葉原のメイド喫茶。砂夫ははじめての体験に戸惑いながらキョロキョロと店内を見渡した。壁に目をやると黒板にチョークで「日直」とか「相合い傘」が書いてある。小さな机やイスもあり、まるで小学校の教室に居るような錯覚に陥った。 メイド姿の女の子がケチャップでハートマークを書いていたり、あめ玉を客に「あーん」と食べさせていたり、あちこちで「モエモエ」と言っていたり…。何が何だかで頭の中で大きなハテナマークがぐるぐると回っていた。
(ここからはボクに任せるのネ)
席に着くや否やシロモチくんは砂夫のポケットから飛び出してテーブルの上に飛び降りた。
「ご主人さま、ご注文は何にしますかぁ?」
(ボクはイチゴ大福ね)
シロモチくんは注文を聞きに来たメイドにテレパシーを送った。
「わぁ!お人形さんがしゃべってるぅ~。メグミちゃんも来てごらんカワイイわよ~」 シロモチくんは耳をパタパタさせてメグミの前に飛んでいった。
メグミが両手を手相でも見てもらうように差し出すと、シロモチくんはちょこんと乗っかった。
(おネエさんに少し聞きたいことがあるんだけど、ちょっと良いかなぁ)
今度はメグミにテレパシーで話しかけ、キラキラした眼で見つめた。
「うん、何でも聞いてね~★」
キラキラ光線にロックオンされたメグミはすっかりシロモチくんの虜になっていた。
(おネエさんはクワジマっていう人を知ってる~?黒縁メガネのハゲたおじさんなんだけど)
シロモチくんはメグミに尋ねた。
「ハゲた黒縁のクワジマさんねぇ。ひょっとするとクマちゃんのことかなぁ。いつも私のことを指名してくれるスーツ姿のおじさん。『ボクのことクマちゃんと呼んでねぇ』なんて甘えた声で言ってくるの。ホントは気持ち悪いけど、いっーーーぱいプレゼントを買ってくれるから、アーンてオムライスを食べさせてあげるの」
メグミはクワジマの情報をペラペラとしゃべり始めた。
(で、どんなものをもらったの?)
「そうねぇ~、GACCIのバッグとかぁ~、エレメスの服とかぁ~、チャンネルの時計とか…。そうそう、何か高そうなフランス料理店とか赤坂の料亭にも連れて行ってもらったわ。『今度、温泉旅行にいこうね』って誘われているけどさすがにそれはねぇ~」
(ふーん、大変だねぇ~。でも、クマちゃんは金持ちなんだね?)
「ううん、お金は大丈夫なのって聞いたら、『心配要らないよぉ、全部会社のお金でちゅ~』って言ってたよ」
(はい!OKデス!)
シロモチくんは砂夫に目配せをすると親指を立てた。それを見て砂夫も親指を立てウインクを返した。
砂夫の挑戦

しげしげと名刺を眺めながらクワジマは砂夫を一瞥した。
「はい、先日、東京ビックサイトの展示会で弊社のブースに立ち寄っていただきました。その節はお時間がなかったようなので、改めてご挨拶にお伺いしました」
辰野メディカル本社の応接室でクワジマの名刺を大事そうに頂きながら砂夫は答えた。
「そうですか、では手短にお願いしますよ」
クワジマは面倒くさそうに砂夫の名刺をテーブルに放り投げながら深々とソファに腰掛けた。
「はい、今日は折り入ってお願いがございまして…。御社がクレーに発注しているシステムをすべて私どもにいただけないかということなのですが」
砂夫はドキドキしながら、それでも堂々と言い切った。
「はぁ?!今なんておっしゃいましたか?」
クワジマの手はワナワナと震えていた。
「……。」
それを見た砂夫は黙り込んでしまった。
(“へいしゃどくせんでいっかつはっちゅうをくださいといったのです”でしょ)
ポケットから飛んでくるシロモチくんの伝令。
「弊社独占で一括発注をくださいと言ったのです、でしょ」
(あっ、砂夫さんたら…!)
シロモチくんが呆れたのも無理はない、砂夫のセリフはすべて自分が指示したものだったからだ。
「でしょ…バカにしているのか君は!私は忙しいのだ、早く帰ってくれたまえ」
クワジマはスクッと立ち上がり、ドアの方向を指さした。
(まあ落ち着いてくださいよぉ、クマちゃん)
クマちゃん、と聞いてクワジマの動きがピタリと止まった。
「誰だ今のは、他に誰かいるのか?」
(今度は私と温泉旅行に行ってくださいよぉ、クマちゃん)
(GACCIのバッグとかぁ~、エレメスの服とかぁ~、チャンネルの時計とかも買ってもらおうかな、クマちゃんに…)
クワジマは膝から崩れ落ちながら小さな声で聞き返した。
「ど、どうしてそのことを…」
「どうなさいましたか?私は何も申し上げておりませんが…」
そのとき、シロモチくんのGOサインが飛んできた。
(今デス、砂夫さん!)
砂夫は内ポケットからICレコーダを取り出すとおもむろに再生のボタンを押した。
“ボクのことクマちゃんと呼んでねぇ~”
ギャーーーー!
「専務!どうかしましたか?」
フロアに響き渡るクワジマの叫び声を聞きつけた秘書が会議室に飛び込んできた。
「な、何でもない。それよりこちらの方にコーヒーをお持ちしなさい。後、銀座万疋屋のメロンも…。あっ、それから入室には必ずノックをするように…」
【次ページ】「国に大事があるときは高虎を一番手とせよ」と家康に言わしめた、藤堂高虎に学ぶ
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