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- 2011/03/15 掲載
連続歴史企業小説「甲冑社長」 ~第二話 明かされた陰謀~
浅井長政の家臣、藤堂虎高の息子として生まれた藤堂高虎に学ぶ
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「アイテックはもはや風前の灯火、倒産も時間の問題だよ。しかし、こんなにうまく事が運ぶとはさすがは浅田君だ。で、どんな方法を使ったの?」
「高尾フィルムのヤマシマ専務に高級な菓子折を渡しましたのよ。中身はオモチじゃなくてオカネだけどね。さすがは次期社長候補、いい仕事をしてくれましたわ。でも、あのエロオヤジ、いつ行ってもいやらしい目つきで私を舐めるように私を見るの。ホント、いやになっちゃう」
クレーの社長室でイチャつきながら話しているのは社長の久礼江金夫(くれえかねお)と愛人の浅田千絵(あさだちえ)。表向きには千絵は営業部長ということになっている。久礼江は千絵を膝の上に乗せながら話を続ける。
「まぁ、君の美貌も武器の一つじゃないか。うまく取り入ってクレーを儲けさせてくれよ」
今度は久礼江が千絵の耳元に顔を近づけながら
「で、これからどうするつもりなんだ」
とささやいた。すると突然千絵は鬼のような形相で机の上のペーパーナイフを掴むと無言で投げた。ナイフは風切り音を立てながら一直線に飛んでいき、ズバッと花瓶に突き刺さった。
パリーン!
真っ二つに割れる花瓶。
「あの花瓶はアイテックの行く末よ。今は戦国時代と同じ弱肉強食!食うか食われるか。あんな会社、白餅のように一口で食ってやるわ」
「おお、コワっ。君だけは敵に回したくないね。君子危うきに近寄らず」
背中を丸めて社長室を出ていく久礼江を見送りながら、千絵は不敵に笑った。
明かされた陰謀
「こんな人形が救世主になるのかねぇ~」ガラーンとした事務所で机の上のシロモチくんの耳をつつく砂夫。
(ちょっと、何をするのさ!手あかが着くじゃないのよ)
カポッ!
シロモチくんは耳を外すとポケットからハンカチを出して丁寧に磨き始めた。
「ほぅ、シロモチくんの耳は取り外し式になっているのか。そういえば甲さんというコンサルタントも同じようなかぶり物をしていたなぁ」
(耳じゃないよ、これはクワガタって言うんだよ)
ほっぺたをふくらませながら兜を磨き続けるシロモチくん
カポッ!
(コレで完璧。アンテナが錆びると感度が落ちるからね。日々のメンテナンスは大事だよ)
ピピピッーーーー
シロモチくんのクワガタが鳴った。
(わるものしゅうらいけいほうーーーー)

「邪魔するで!」
いかにもという人相の悪い男たちが数人ドカドカと事務所に入ってきた。
「社長はんやね。貸した金を返してもらいに来たでー、さあ300万円。耳をそろえて返してんかーー」
「そっそんな、急に言われても~。パソコンも応接セットもお金になる物は全部売ったし、自宅も売ってアパート暮らしやし、社員にも全員辞めてもらったし……。もう何も残って……」
「オッさん、なめたらアカンで!ほな遠洋漁船にでも乗ってもらおかー」
男は砂夫の腕を掴むと事務所から連れ出そうとした。
(待ちなさーい!砂夫さんの手を離さないとお仕置きするよ)
シロモチくんはリーダーと思わしき男にテレパシーを送った。
「誰や!イチャモンつける気か…ん?何や喋るオモチャかいな。こんなヤツに何ができんねん!」
男はシロモチくんをつまみ上げるとゴミ箱めがけて放り投げた。
シュシュシュシュッ!
一瞬、目の前が真っ白になったかと思うとシロモチくんは見る見る大きくなっていった。
「ウワー、何が起こったンや!誰か助けてくれー」
男たちは事務所一杯に巨大化したシロモチくんに押し出されるように外へ投げ出された。
(これが本当の押しくらまんじゅうです)
「ううっ、痛ててて。チクショー覚えとけ!」
男たちはシッポを巻いて退散した。
「ううっ、苦しいーー」
(あっ、ゴメン砂夫さんがペッチャンコになっちゃったのネ)
プシューーー
一瞬でシロモチくんは元の大きさに戻った。
「へーっ、スゴイ技を持ってるンやなぁ。さすがは救世主!」
(感心している場合じゃないよ!)
パタパタパタ
シロモチくんは耳をばたつかせながら浮遊し、一枚の紙切れを砂夫に手渡した。
(これはさっきの男のポケットから落ちた紙切れだよ。読んでごらん)
日時: 2011年●月●日
受信者: 千田金融 千田社長 predident@waru.com.com
件名: アイテックの追い込みについて
千田万像社長 さま
いつもお世話になっております。
頼んでおいたアイテックの追い込みの進捗はいかがでしょう?
約束どおり月末までに木馬路目を会社から追い出してください。
アイテックの事務所の鍵と引き替えに残りの報酬をお渡しします。
では、吉報をお待ちしております。
株式会社クレー
東京本社 営業本部
浅田千絵
「何やと!千田金融とクレーはグルやったのか。甘い言葉で近づいてきて金を貸すと言うから借りたけど、利息がトイチなんて、おかしいと思ってたんや。ホンマ、ワシって甘いよな……」
砂夫はガクッと肩を落とした。
【次ページ】7度も主君を変えた藤堂高虎に学ぶ
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