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- 2011/08/16 掲載
連続歴史企業小説「甲冑社長」 ~最終話 別れの時~
浅井長政の家臣、藤堂虎高の息子として生まれた藤堂高虎に学ぶ
ダダダダッーーー
髪の毛を振り乱しながら廊下を駆け抜ける千絵。
バーン!
社長室のドアに体当たりしながら千絵が室内に転がり込んできた。
「あなた!大変よぉーー。高尾フィルムの大口案件がキャンセルになったの!!」
千絵は一枚のFAXを久礼江の目の前に突きつけた。
「なにぃーーー!」
久礼江は千絵からFAXを奪い取ると素早く老眼鏡をかけ、食い入るように読み始めた。
「貴社へ発注した検査システム1万台の契約を破棄し白紙に戻す…って、どうなっているのだ浅田君!」
久礼江はFAXをグシャグシャに握りつぶしながら千絵に投げつけた。
「私にもわからないのよ!高尾フィルムのヤマシマには十分なカネを渡しているのに今さらキャンセルなんて、おかしいわよ」
プルルルルッーーー
二人の会話を遮るように電話が鳴った。
「なんだ!今、大事な話をしているから後にしてくれ。えっ、アイテックの木馬路目が受付に来ているだって?外出しているとか、何とか言って引き取ってもらえ!」
ガチャ!
乱暴に電話を切る久礼江。
プルルルルッーーー
「だから、今、忙しいと言って…。えっ、木馬路目が制止を振り切ってここへ向かっているだと!」
バーン!
「毎度!お邪魔しまっせ!!」
「勝手に入ってきて無礼なヤツ、不法侵入で警察を呼ぶぞ!!」
受話器を取り上げ、110番をしようとする久礼江に砂夫は毅然と言い放つ。
「どーぞ、お呼びください。でも、そんなことをして困るのはそちらの方やで!何や、たんまりと裏金が動いているらしいけど…」
久礼江の動きがピタリと止まった。
「ど、どこでそのことを…」
「おっと、社長はん自らが認めたわ。ホンマ、あんたはワルでんなぁ」
砂夫はジリジリと久礼江に近づいていった。
「ちょっと、あなた。何を証拠にそんなこと言うの?事と次第によっては名誉毀損で訴えますよ!」
千絵の金切り声が響いた。
「ひょっとして、あんたが浅田千絵さん?キレイな顔してエグイことしますなぁ」
「何ですって!ちょっと言葉が過ぎやしませんか?名誉毀損よーーー」
じたんだを踏みながらキーキー言っている千絵にバストーンで言葉を返す砂夫。
「千田金融はあんたの友達ですやろ?ホンマ、筋の悪い金融屋やで。もうちょっとでダマされるところやったわ」
今度は千絵の動きがピタリと止まった。
「まあ、時間はたっぷりとあるさかい、じっくりと話しましょか」
砂夫は二人ににらみを利かせながらドカッとソファーに腰を下ろした。
【次ページ】「武士たるもの七度主君を変えねば武士とは言えぬ」
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