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- 2009/06/01 掲載
【連載】ザ・コンサルティングノウハウ(7):安心の論理(2/4)
納得できる「ストーリー」を常に心がける
「ところで伊藤さんがもうひとつ言われた、『ストーリー』とは何ですか」釣井が聞いた。
「起承転結など、ものを伝える順序というのがあるだろう。メッセージを理解しやすくするために、伝える順番を考えることは重要だ。たとえば、君たちのコンサルティングノウハウ検討会を、うちの会社で全社活動として展開したいとする。『君たちの検討会が必要なんだ』と言われても、君たちは忙しい中で全社展開の事務局などする気は起きないはずだ。少なくとも君たちは、なぜ君たちの検討会が全社で求められているか聞きたいだろう。たとえば、当社コンサルタントの実力が、年を追って落ちている。コンサルティングノウハウがそれを救える有力な方法だ。というメッセージが先にいる。僕たちコンサルタントが、クライアントに示すメッセージは、簡単に『はいわかりました』と言えないものが多い。リスクをテイクした決断や、ものすごい努力で現状を大きく変えることが含まれている。しかも僕たちがそのメッセージをクライアントの経営者に伝える時間は、せいぜい1時間半というところだ。だから、相手が理解し、納得できるストーリーを常に心がけることが必要だ」
「たとえば、どのようなストーリーがあるんですか」
「一般論だが、大人数を1つの方向に向けるには、最初に現状のひどさなどを示して慌てさせ、次に解決の方向を指し示し、最後に確実にその方向に向けて行動が起きる方法を言うといい。経営者と相対する場合、最初に結論を言い、次にそれが妥当であると考えた背景を示し、最後にその人に何をしてほしいか言うといい。このようなストーリーを考えるのは、正式な報告会だけではないよ。クライアントの前でしゃべる時は、たとえ宴会の席上であっても、これを忘れてはならない。クライアントの信頼感を失ったら、コンサルタントはおしまいだ。何か思いついて、すぐに口に出してはならない。一瞬たちどまり、ストーリーを決めてから口を開くことは、コンサルタントの基本動作だ」
山口は、ホワイトボードに今まで伊藤に教えてもらったコンサルティングノウハウをまとめようと、立ち上がった。
「まてまて、君らは素人ではない。コンサルティングノウハウはその場で覚えなきゃだめだよ」
「その場で覚えるんですか」
山口と釣井は、同時に言った。
「覚えるために、一度まとめることを否定はしないよ。しかし、体系化して整理することは、時間の無駄だ。山口君のメソドロジーは、岩崎から聞いた。僕は、メソドロジーは、各コンサルタントがコンサルティングノウハウを理解するためのフレームワークとして使うべきだと考えている。いいかい、今僕が言ったようなコンサルティングノウハウは、わが社に無数にあるぞ。どんどん覚えて、実践して、自分のものにしなくちゃ。そして早く、自分でコンサルティングノウハウを生み出せるようにならないと、シニアコンサルタントになれないよ。コンサルティングノウハウの体系化と修得は、初級だ。先輩が生み出したコンサルティングノウハウを完全に使いこなせて中級。自ら生み出したら上級だ。自らコンサルティングノウハウを生み出すためのコンサルティングノウハウだってあるんだよ」
山口と釣井は、困惑した。
「僕は、あと30分でクライアントに行かなければならない。ナレッジの体系化の手伝いをするよりも、1つでも多くのコンサルティングノウハウを置いていくよ。メッセージ・ファーストの続きで、もうひとつアドバイスしよう。それは『事実に語らせる』ということだ。さっき事実がなければ思いつきだといっただろ。これは、コンサルタントにとってとても大切なことなんだ」
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