地域WiMAXの現状と将来像

　地域WiMAXにかかる地方事業者の期待は高い。インターネット接続サービスだけにとどまらず、地域WiMAXの回線を利用した携帯電話サービスや地上デジタル放送などのサービスを展開できるからだ。この背景には、CATV事業者のインターネットサービスの伸び悩みがある。インターネットのニーズよりもむしろ、テレビ難視聴地域対策や携帯電話網の整備に関するニーズの方が大きいエリアもたくさんある。

　インターネットアクセス回線だけではなく、テレビや携帯網を包括した、地方のインフラとしての期待も高い。また、総務省では災害時の地域回線の確保や公共交通機関の運行情報、地域医療における電子カルテなどのデータ通信、福祉事業への応用など、公共のインフラとしての活用も提案している。

　総務省では2008年3月より免許申請の受付を開始し、全国62市町村の41事業者が申請を行い、免許が交付された。また、2008年11月には、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス（SFC）とインテック、ジュピターテレコム、ブロードバンドタワー、ワイドリサーチが共同で「湘南オープンワイヤレスプラットフォーム」という合同会社を設立し、神奈川県藤沢市での地域WiMAXを活用した新たなビジネスモデルについて、2009年度中の実用化に向けて研究を進めている。

図5「湘南オープンワイヤレスプラットフォーム」が推進するオープン型地域WiMAXのモデル
※クリックで拡大

　しかしながら、地域WiMAXの普及にはいくつかの壁があることがわかってきた。免許を申請した事業者では、基地局の整備などWiMAX機器のインフラ整備を進める必要がある。しかし、機器の導入・納品が遅れるなどの理由で予備免許の期間延長を申請した事業者が増えており、まだ世界的に事例の少ない、最先端のインフラ整備の難しさを物語っている。

　また、秋田市の「東北インテリジェント通信」と石川県小松市の「テレビ小松」の2事業者は免許を返上し、地域WiMAXのサービスを断念した。この理由として、東北インテリジェント通信では「イー・モバイルやNTTドコモの高速データ通信がエリア内で開始され、事業開始の必然性が薄れたため」としている。ちなみに東北インテリジェント通信は、ルート、アライドテレシスグループと共同で総務省東北総合通信局の研究会に参加し、2007年2月から秋田県内において実証実験を行っていた。今回の免許返上は、実証実験期間を含む長い期間で得た結論であるだけに、地方WiMAXの難しさを浮き彫りにしたものと言えるだろう。

　この問題は将来的には、NTTドコモなどの通信事業者が推進している「LTE」との競合という問題に発展するはずだ。NTTドコモでは、このLTEサービスを「Super3G」という名称で2010年にサービスを開始する予定だ。LTEは同社の実験で下り最大250Mbps以上の高速伝送を実現しており、地域WiMAXよりも遙かに高速だ。

　もし、早期に地方エリアでのLTEサービスが開始されたら、地域WiMAXの必然性はなくなってしまう。LTEは世界的な標準規格であり、移動通信のデファクトスタンダードとして携帯電話各社が採用する可能性がある。しかも、地域WiMAXで使われる通信機器は、LTEや全国WiMAXとの互換性はない。この事に不安の声も上がり始めている。

　このように、地域WiMAXが全国に普及するかどうかは、まだ、不透明な状況だ。今後は、LTEとの差別化を図り、地域WiMAXならではの独自性の強いサービスや新たなビジネスモデルを展開し、その優位性を確立することが必要とされるだろう。