- 2009/02/03 掲載
【林雄司氏・シンスケ横山氏インタビュー】ネットとリアルをつなげることで生まれた新しい空間(2/3)
メインでもサブでもない“カルチャー”
シンスケ横山氏 |
横山氏■鉄道! 桜! 温泉! 昆虫! わかりやすいでしょ?(笑) でも、その中身を誰にでもわかりやすく見せるようにするのは本当に至難の技で、いまだにそこがなかなか上手く出きません。実はそれぞれにムラ社会があり、そのそれぞれの世界にも派閥もある。それなら小さくひとつの派閥を狙っていったほうが楽。でも、それは違うとずっと思っていて。
林氏■ぜんぜんサブカルじゃないですよね。1回転して、メインカルチャーをやろうとしている気がする(笑)。温泉に桜ですからね。
横山氏■サブカルって言葉には昔からすごく抵抗があるんですよ。俺と林君はいまだにサブカルって言葉の意味を捉えきれていない。実体がありませんよね。
――では、店名にもつけられている“カルチャー”という言葉をどう捉えられていますか? ざっくりと日本語にすると「文化」ですよね。
林氏■テレビで紹介されているものだけがカルチャーではないし、それ以外のものすべてがサブカルチャーだったりオタクっぽいものだと言われるのも何か違うな、と思っているんです。メインとサブの二項対立ではなく、小さな趣味でもそのひとつひとつをカルチャーだと認めることが大切なんじゃないかと。
今、みんなまったく共通の趣味を持っていないですよね。サッカーやオーディオのようなメジャーな趣味でもそれぞれマニアックな言葉で話しているし、音楽についてなんて怖くて人前で話もできない。「相手のほうが自分より詳しかったらどうしよう」という不安がある。こういう気持ち悪い環境に対して、もういちど大きな“カルチャー”を提示してみたいんです。ロフトプラスワンが趣味や文化を細分化する方向へ行っているのだとしたら、カルカルはそれをもういちど大きく捉えなおそうとしているのだと思います。
自分がやっている「デイリーポータルZ」は「自分の父親にもわかるように書く」という決まりがあります。顔文字も使わないし、マニアックな言葉も使わない。ちゃんと説明して、他人にわかってもらえるようにする。そういうことが“カルチャー”なんだと思います。別に対象は何だっていいんですよ。気持ちとしてはカルカルやデイリーを使って、もういちどみんながわかるカルチャーを提示することができるといいな、と。
横山氏■“やさしさ”は大事だと思うんです。親にでも誰でもわかるような入口を作って物事を表現したい。
林氏■ごはんに卵をかけると美味い、ぐらいのところから話をしたいですね。で、それをイベントにするためには、これが面白い、と思ったときに、ちゃんとそれを伝えないといけない。でも今は仲間を作るための暗号を作って楽しむほうに行っている。ネットなんか完全にそう。仲間同士の連携を確かめる方向に行っているんですね。カルカルのイベントは、そうはしたくないんです。クラスでサッカー部に入っているような人気者にもなれず、かといってオタクにもなれないような人にこそ楽しんでもらいたいですね。
――では、昨年1年のイベントの中で、手ごたえがあったものを教えてください。手ごたえの基準はいろいろあると思いますが、カルカルを象徴するようなイベントというと、どんなものになるでしょうか?
横山氏■普段、接点がないような人たちが集まったイベントが楽しかったですね。「温泉めぐりナイト」という温泉に詳しい人が温泉の写真を見せたりするイベントがあったんですけど、おじいさん夫妻が来てお弁当広げてるんですよ(笑)。それは嬉しかったですね。さすがにお弁当は止めましたけど(笑)。
林氏■一応、飲食店ですから(笑)。
横山氏■わかりやすい入口を作ったからこそ、おじいちゃんたちが来てくれた。それは「やった!」と思いましたね。マニアックではなく、幅の広いところにアプローチしているから、すごく難しいし、しんどい。でも、試行錯誤しながら続けているとおじいちゃんが来てくれたりする。「たまごかけごはんナイト」のときも、こういうイベントに興味はあったけどキッカケがなかったような人たちがたくさん来てくれた。そういう人たちが、イベントをする側も唸るようなレシピを紹介してくれたりするんです。彼氏についてきた女の子が卵の白身が食べられないから、どうすればいいかをお客さんもみんなで考えたり(笑)。こういう機会がないと会えないような人たちに会えるイベント、ってのが楽しいですよね。会ったことのない人に会えるような手ごたえを探し続けているような気がします。
――林さんはいかがでしょうか?
林氏■最初の頃は、デイリーのライターさんたちが壇上にあがって、その人たちのファンが集まる、という感じのイベントが続いていたんです。でも、それだと一方的で面白くない。だから「デイリーポータルZ エキスポ」では会場のテーブルを全部どかして、そこでライターさんたちが作ったものを展示したり、イラストレーターさんがイラストを描いたりして、デイリーでやっていることをお客さんにも体験してもらうようなイベントにしました。デイリーで記事を書いているときって、実は書いている僕らがいちばん楽しかったりするんですよ。だからお客さんにもこの楽しさを体験してもらいたい。でっかいタコの足を作って、それに絡まって写真を撮ったりする。お客さんはたぶんその写真を友達に見せますよね。それで充分なんですよ。そういうおかしなことをやって他人に見せる、というのはデイリーのライターたちと同じなんです。その楽しさを体験してもらえたのがいいなぁ、と。
――ただ壇上の演者を見るだけではなく、参加型のイベントですね。
林氏■前回のインタビューで「ネットをリアルに」という話をしたんですけど、それがわりと実現できたかな、と思ったのがこのイベントでした。デイリーでリアルにある愉快なことをネットで見せる、今度はカルカルでネットで見せたものをリアルに戻してみんなで楽しんでもらう。その逆向きの矢印ができたかな、と思います。「こんな写真を撮ったよ」なんていうのがオフラインで広がるのがカッコいいんじゃないかな。ネットを見ながら何かをクリックするだけでなく、実際に携帯を友達に見せる。そういう広がり方をするのがいいなぁ、と思いますね。それが“カルチャー”なんじゃないかと思います。
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