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  • 2024/09/07 掲載

ギリシャ「週6労働法」で“ブラック国家”化、「日本も他人ごとではない」理由

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この数年、日本で一般的な週5勤務よりさらに1日労働日数が少ない(=休日が多い)週4労働の試みが世界各地で実施されている。この動きは、生成AIはじめ、ITによる業務効率化の流れも相まって加速の様相だ。そんな中、「週6労働法」を導入したとして話題となっているのがギリシャだ。なぜギリシャは世界の労働トレンドに逆行し、日本流で言えば「ブラック企業支援」とも言われかねない法律を導入したのか。探ってみると、日本も他人ごととは言えない深刻な側面が見えてきた。
執筆:細谷 元
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旅行客に人気のギリシャのサントリーニ島。同国の観光収入は急増している
(Photo/Shutterstock.com)

ギリシャ、週6労働法を施行、その中身とは?

 世界各地で週4日労働制度の導入に向けた取り組みが増えつつある中、ギリシャではこれに逆行する法律が施行され、物議を醸している。

 ギリシャ政府が2024年7月1日に施行した週6日労働を可能にする法律だ。主に24時間体制で運営される企業に適用され、従来の週40時間労働を最大48時間まで延長することを認めるもの。

 対象企業は、従業員に1日2時間の勤務か、8時間のシフトを追加することが可能となる。ただし、食品サービス業や観光業は対象外となっている。

 ギリシャのニキ・ケラメウス労働社会保障相は、CNBCに対し「この新規制は、ギリシャの法律で定められた週5日・40時間労働制に影響を与えるものではなく、また新たな週6日労働制を確立するものでもない」と説明。その上で「限られた状況下で追加の労働日を選択できるようにする例外的な措置にすぎない」と述べている。

 ケラメウス労働社会保障相によれば、新規制の対象となるのは、24時間年中無休で交代制勤務を採用している企業と、週5日または6日の24時間営業で交代制勤務を採用している企業の2種類に限定される。特に後者については「業務量が増加した場合にのみ追加の労働日が許可される」としている。

 新法の目的について、同労働社会保障相は「従業員をサービス残業から保護し、公平な報酬を確保すること」だと説明している。たとえば、労働時間の増加により給与が上昇する可能性があるという。

 一方で、新法に対する批判の声も強い。ギリシャの労働組合や政治アナリストたちは、この動きを「野蛮(barbaric)」だと非難。公務員労働組合Adedyのアキス・ソティロプロス執行委員は「ほとんどの先進国が4日労働制を導入しようとしている中、ギリシャは逆方向に進んでいる」との批判を展開している。

ギリシャ経済、金融危機と若年層の流出・失業問題

 ギリシャで週6労働法が登場した背景を探りたいところだが、その前に同国の経済構造と主な経済課題を見ていきたい。

 国際通貨基金(IMF)の推計によると、ギリシャの名目GDPは2,502億ドルで世界54位、購買力平価では55位に位置する。1人当たりGDPは、名目値で2万3,966ドル、購買力平価で4万1,188ドルだ。経済構造は、観光を中心とするサービス業が80%、工業が16%、農業が4%を占めており、観光業と海運業が同国の経済の大半を担っている。人口は1000万人強。

 特に観光業は、ギリシャ経済の重要な柱の1つ。2019年には3130万人の国際観光客を迎え、EU内で7番目、世界で13番目に多く訪問された国となった。

 また、ギリシャの商船数は世界最大規模を誇る。2021年時点では、世界の船舶総重量トン数の21%をギリシャ所有の船舶が占めていた。

 しかし、ギリシャ経済は2008年の世界金融危機と、それに続く欧州債務危機で大きな打撃を受けた。2008年から2013年にかけて、GDPの実質成長率はマイナスを記録し続け、2011年には公的債務がGDPの172%にまで膨れ上がった。その後、2014年に0.5%のプラス成長を記録したものの、2015年と2016年は再びマイナス成長に陥った。2023年時点でも対GDP比の公的債務は168.83%で世界3位となっている(なお、日本は252.36%で世界2位とギリシャより悪い)。

 一連の経済危機の煽りを最も強く受けたのが若年層だ。ギリシャの15~24歳の若年失業率は2008年以降、20%台から一気に50%台へと上昇、EU内で最も高い水準となった。これはEU全体の当時の若年失業率14.3%を大きく上回る。若年失業率は2013年に58.5%とピークを記録、その後下落してはいるものの、EU内との比較では依然高い水準が続いている。

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ギリシャの若年層失業率の推移
(出典:Statista

 若年失業の原因として、金融危機やEUの要求に基づく緊縮財政措置、生産性の低さ、労働市場への参加率の低さ、過剰な規制、公的部門の肥大化、高い政府債務などが指摘されている。これらの要因により、投資が抑制され、若年層の雇用機会減少につながったという。

 若年失業の高止まりは、政治的混乱や社会的緊張を引き起こし、2015年には反緊縮を掲げる左派政党シリザの勝利につながった。さらに深刻な問題として、多くの若者、特にエンジニアや医師、技術者といった高度技術を持つ人材が、より雇用機会の多い他のEU諸国へ流出していることが挙げられる。 【次ページ】週6労働法が提出された背景とは? 日本も無関係と言えないワケ
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