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  • 2007/06/18 掲載

【企業経営で着目したい4つの時代】マーケティング・マッスルの時代/ 法政大嶋口教授

【ビジネスインパクトvol.11】個別要素の競争、シェア争いからの脱却

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前回、戦争型の競争から恋愛型の競争へと、企業が挑む競争の中身が変わってきたことを紹介した。今回は、マーケティング論、そして企業と市場の関係史に照らして、その意味合いを掘り下げるとともに、嶋口教授の提唱する「マーケティング・マッスル」の意味するものを考察したいと思う。大企業病やセクショナリズム、法人が陥るメタボリック症候群を克服し、企業は成長のために筋肉質の肉体を得、それを維持しなければならない。そこで重要になるのが徹底した顧客基点のモノの考え方であるわけだが、それをベースに組織のケーパビリティ(組織能力)を高めていく必要があると嶋口教授は説く。
法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授 嶋口充輝氏
法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授 嶋口充輝氏


コーポレート・ガバナンスに必要な
マーケティングの視点


─競争優位の源泉を活用して、シェア争いに勝つことが重要だという考えが長らく支配的だったと思うのですが、先生は恋愛型競争の時代を標榜しています。

嶋口●
そもそもマーケティングというものが、企業経営において大きなテーマとしてクローズアップされてきたのは1960年代でした。この頃の経営学といえば、ほとんどマーケティング一色だったのです。実は当時は競合に対する競争優位という概念は希薄で、経営のテーマはほぼ100%、顧客志向だったのです。ちなみに、それ以前はどうであったかというと、企業は自社のことだけに一生懸命だった。市場にはまだフロンティアがたくさんあって、他社との競争という概念はありませんでした。それが60年代に入ると、競争環境というものが生まれてきて、差別化が必要であるという話になってきました。ただその際の差別化は、あくまでも顧客価値をベースにしていたわけです。ところが時代が進み、70年代後半になってくると、高度成長は影をひそめ、環境問題なども登場して、市場というパイは限られたものであるという考えが趨勢となり、競争環境というとらえ方が重要であると思われるようになったわけです。企業の価値を高めるためには、競争優位を高めるしかないという信念が台頭しました。


─経営戦略の考え方にも、時代の変遷があったということですね。

嶋口●
そうですね。市場環境とともに、戦略論も、マーケティングの考え方も変わっていきます。マイケル・ポーターに代表される競争優位の戦略といった考え方は、このとき、隆盛を極めました。戦略市場経営が重要であり、企業が成長していくためには、シェア争いに勝利するしかないという戦争型の競争が重要とされたのです。リーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワーなどといった4分割も有名になりました。ROI(投資収益率)が極めて重要で、ROI を高めるためにはシェアを大きくしなければならな いと言われはじめたのもこの頃です。3C 分析(図表1)などと言いますが、内実は競合との力関係だけに意識が集中していたのです。

3Cとは
(図1)3Cとは


─ところが90年代に入ると様子が少し変わってくるわけですね。失われた10年、あるいは成熟市場というキーワードが目立ち始めました。

嶋口●
一種、揺り戻しのようなものです。競争と言い続けるだけで、企業は本当に成長し続けることができるのか。競争の必要性は否定しないまでも、もう一度、顧客に目を向けるべきではないのかという考え方が、理論研究の中で目立ち始めました。なぜならば、競争がスクランブル化してしまって、競合相手を特定しにくい市場環境になっていたからです。同じ業界の中で、ナンバーワンに打ち勝つといった単純な競争の図式は見当たらなくなってしまいました。たとえばコンビニとファストフードは、中食という部分で競合になります。食生活という軸でとらえれば、内食を担っていたスーパーも、ミールソリューションで中食に侵入してきました。また中食産業自体が、内食や外食と競合関係になっていったのです。こうなると、競合に対する競争優位という考え方は非常に難しくなります。そこでもう一度、原点である市場、顧客に意識を戻すべきだという話になっていったわけです。日本でも、そういった傾向が顕著になってきたので、私は恋愛型競争の時代になったと言いはじめたわけです。


─戦うべき相手がはっきりしていて、戦いの場もはっきりしている。その市場のシェアを奪い合う。これが戦争型の競争ですね?

嶋口●
そうです。競争は歴然として、そこにある。しかし、その競争の仕方が変わってきた。相対的なシェア争いではなく、絶対的な顧客価値を争う競争の時代です。2000年に社団法人日本マーケティング協会で行った「マーケティング・イノベーション21」という調査で、そうした傾向が非常にはっきり出てきたのです。シェアよりもっと顧客満足へと、多くの企業、特に好業績の企業の関心は移っていました。顧客を恋人に見立てて十分な満足を提供し、できれば結婚にまでこぎつける。その先もあって、末永く仲良くしていけるように、顧客ロイヤルティを高める。そのためには、常に関係性を強化していくことが重要です。もって顧客、なかでもお得意様の生涯価値を最大化する。それが関係性のマーケティング、あるいはリレーションシップ・マーケティングの意味するところです。そういう方向に、マーケティングの主眼点も変わってきています。

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