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- 2024/01/18 掲載
“1万2680時間”の業務量削減も? 茨城県東海村の「地道なDX」が生んだ衝撃の効果
東海村が「新しい役場への転換」を掲げた理由
茨城県の中央部、太平洋に面した縦横6㎞の小さいエリアが東海村だ。日本で初めて原子力の灯が点った村として知られ、多くの原子力関連施設が集積している。人口は約3万8000人、水戸市にも近く、利便性と自然に恵まれた同村は、いい部屋ネットが発表した「街の住みここちランキング2023<北関東版・茨城県版>」で2位に選ばれている。財政的にも豊かだ。国からの原子力関連の交付金、発電所関連の固定資産税が入る東海村は、国からの地方交付税を受けていない不交付団体でもある(令和5年度の茨城県の不交付団体は3つのみ)。
とはいえ、東海村が人口減少と高齢化という日本共通の問題を免れているわけではない。人口が減り高齢化が進めば、いずれは現在の体制で現在と同じレベルの行政サービスを提供することは困難になる。そこで、今のうちから打てるべき手を打とうとしているのが東海村である。
2020年3月、東海村は自治体運営に関する計画「東海村第6次総合計画」を策定し、その中の1つとして時代の変化に対応した「新しい役場への転換」を掲げた。そして、その具現化を担当し、現在、東海村のDXを推進している東海村 総合戦略部地域戦略課 デジタル戦略担当 係長の佐藤洋輔氏に、東海村の取り組みについて話をきいた。
佐藤氏は、「総合計画では『新しい役場への転換』というミッションを掲げ、方向性は示されておりましたが、その具現化はこれからという状況でした。そこで、新しい役場への転換を新しい役場への変革(トランスフォーメーション)と捉え、DXを通してこの変革を実現する計画『とうかい“まるごと”デジタル化構想』(以下、まるデジ構想)を策定しました」と話す。
役場を変革する「まるデジ構想」の全体像
まるデジ構想には、大きく3つの特徴がある。1つは組織変革を重視していることだ。目的は新しい役場に生まれ変わるX(トランスフォーメーション)であり、D(デジタル)は手段と位置付けられる。そのため、働き方や組織内のルールなどデジタルと直接結びつかない取り組みも一体的に取り組んでいる。2つ目が「スマートサービスの推進」「スマートワークの推進」「デジタル対応社会の実現」の3つの柱を同時並行で展開すること、そして3つ目が近年の社会変革の中心となっている「スマートフォン」を前提としていることだ。
ここからは、まるデジ構想で掲げられた3つの柱に沿って、それぞれの取り組みについて見ていきたい。
行政手続きを変えた「6つの施策」、なぜYouTubeを使う?
まるデジ構想の取り組みの第1の柱が、行政手続きのデジタル化を推進する「スマートサービス」だ。2021年、2022年で実施した主な取り組みは次のとおりである。- オンライン申請手続きの整備(約80手続)
- 窓口でのキャッシュレス支払整備
- AIチャットボット導入(自動応答)
- 動画による情報発信拡大
- マイナンバーカード交付促進
- 窓口でのタブレット活用
「たとえば、窓口のタブレット活用では、マイナンバーを交付する際、タブレットで説明動画を見られるようにしました。また、YouTubeやLINEを使った情報発信にも取り組んでいます。公式LINEの友だち登録数は1万人を突破し、LINEを使えばかなりの住民に情報を届けられるようになりました」(佐藤氏)
実際にYouTubeの「東海村公式チャンネル」には、さまざまな手続きについて説明動画がアップロードされている。
なお、このYouTubeの動画は、当初は配信動画が少なかったが、佐藤氏や幼稚園教諭が撮影・編集した動画をひんぱんにアップすることにより、裾野が広がっていった。現在では、東海村の公式チャンネルのチャンネル登録数は取り組み開始当初(令和2年5月)の193人から1600人超となっており、複数の部署・職員が定期的に動画による情報発信に取り組んでいる。
また、今年度(令和5年度)は「書かない窓口」というテーマを掲げ、「申請書自動作成システムを搭載した端末」の実証実験を行い、来年度に導入予定だ。この端末にマイナンバーカードをかざすと自動的に名前や住所が入った申請書が作成される。そのため、窓口サービスの向上と職員の負担軽減が期待されている。 【次ページ】「1万2680時間」の業務削減の効果? 東海村は何をしたか
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