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生成AIといえば、ChatGPTを開発したOpenAI、同社に巨額の資金を注ぎ込むマイクロソフト、それに競合するグーグルのGeminiや
Anthropicなどに注目が集まりがちだ。しかし、このほかにも生成AI領域で取り組みを拡大するテック大手はいくつか存在する。IBMはその1つ。法人顧客基盤を活用し、エンタープライズ向けの生成AIの取り組みを加速している。どのような取り組みなのか、IBMの生成AI最新動向をお伝えしたい。
IBM、生成AIでのターゲットはコンタクトセンター
IBMは独自の大規模言語モデルを開発するだけでなく、それらをエンタープライズ向けの特定分野にカスタマイズする仕組みを構築しており、生成AI市場での存在感を高める構えだ。
IBMのコンサルティング部門であるIBM Consultingは10月、アマゾンウェブサービス(AWS)とのパートナーシップを拡張する計画を
発表した。
IBMとアマゾンが同年7月に
発表したカスタマーセンター向けの共同ソリューションを生成AIにより再構築し、カスタマーセンターだけでなく、クラウドバリューチェーンとサプライチェーンにもターゲットを拡張する。
IBMの法人顧客において、生成AI戦略を構築し、ユースケースを特定するために、専門家の支援を求める声が高まっていることが背景にあるという。また、この一環でAWS上の生成AIサービス活用を普及させるために、2024年末までに1万人のコンサルタントのトレーニングを実施する計画も明らかにしている。
カスタマーセンター向けの取り組みとしては、カスタマーセンター管理サービスであるIBM Consulting CCM(contact center modernization)に生成AIを統合しアップグレードする方針だ。
生成AIを活用することで、カスタマーセンターで発生する音声やテキストなどの情報をまとめるだけでなく、分類することが可能となり、さらにはチャットボットから人間の担当者への引き継ぎプロセスも簡易化できるという。
今後IBM Consultingは、SageMaker、CodeWhisperer、BedrockなどAWS上の生成AIサービスを、同社のクラウドプラットフォームであるIBM Consulting Cloud Acceleratorでも利用できるようにし、顧客企業がAWS上で生成AIアプリケーションを実装しやすい環境を整備する。
コンタクトセンター分野の問題、顧客体験指数は低下傾向
IBMが生成AIの活用領域として焦点を当てているカスタマーセンターは、既存のテクノロジーによるソリューションがうまく機能しておらず、非効率や担当者の高い離職率などさまざまな課題を抱えており、新しいテクノロジーである生成AIへの期待は大きくなっている。
フォレスターが2023年6月に発表したカスタマーエクスペリエンス(CX)指数に関する
最新調査では、米国のCX指数は2年連続で下落したことが判明、米国企業におけるカスタマーエクスペリエンスの質の低下に歯止めがかかっていない状況が示唆される結果となった。
この調査は、米国産業13セクターにおける221ブランドに対するカスタマー体験の満足度を分析したもの。米国に住む9万6000人のカスタマーが調査対象となっている。
CXは少しの改善により、顧客の離脱を防ぎ、数百万ドルに上る収益増につながる重要分野。同調査によると、ブランド企業の80%以上がCXの改善に高い優先度を与えているが、実際にCXが改善されたケースは6%にとどまった。前年の10%から4ポイント下がった格好だ。
フォレスターはカナダでも同様の
CX調査を行っているが、2016年以来の最低水準を記録、同国でもCX指数の低下が止まらない状況が判明した。
さらにThe Institute of Customer Serviceの
最新調査(2023年7月)においても、英国のカスタマーサービス指数(UKCSI)は、前年比1.8ポイント減の76.6ポイント(最大100ポイント)となり、2015年以来の最低水準に達したことが明らかになった。
この英国の調査では、フォレスターと同様に13セクターに属する281社に対するカスタマーの満足度が分析されている。プロダクトやサービスに関する苦情に対して、問題解決までの時間が長くなり、また問題が解決されないという状況が増えているという。カスタマーサービス指数が前年比で2ポイント以上改善したのは、281社中15社のみだった。
改善されるべき点には、カスタマーセンターでの適切な担当者への取り次ぎ、担当者の態度、担当者の能力、ウェブサイトナビゲーションが挙げられている。
生成AIを活用することで、カスタマーの発言から、何を求めているのか、そのときの感情などを分析し、必要な情報を適切な形で提示することが可能だ。
たとえば、シリコンバレー発のスタートアップPathlightは、生成AIのエージェントシステムを活用し、カスタマーの満足度を高める施策を提案するシステムを開発している。この生成AIシステムは、カスタマー対応スタッフと顧客のやり取りを分析し、リアルタイムに担当者にインサイトを提供することで、顧客の離脱を防ぐなどの効果が期待できるという。
カスタマーセンターは、生成AIの大きな需要が見込まれる分野。IBMにとっても生成AI市場での存在感をアピールする機会になるかもしれない。
【次ページ】IBM独自の大規模言語基盤モデルとは?
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