- 2006/11/13 掲載
【世界のビジネス事情】インドの社会経済とビジネス事情
ビジネスインパクトvol.7
インド・ビジネス・センター
代表取締役社長 島田 卓氏 |
一例をあげれば、インド統治のために掛かる費用をインドが負担するというHome Charge(本国経費)があった。その支払額はインド政庁年間歳出額の1/4にも及んだという。当時のインド人はイギリスが自国との間で交易を行ってくれて、インドに富をもたらしてくれるものと思っていた。
しかし、インドにもたらされたものは、植民地化というインド人が考えていた物とはまったく異なるものであった。だからインドの人たち、特に年配者の間には、外資は怖いというトラウマが残っているらしい。
そうした抑圧された多種多様な国民を鼓舞し、独立に導くために用いられた政治的プロパガンダは「Self-confidence(自信)」と「Self-respect(自尊心)」であった。当時のインド人は「われわれインド人は、数千年の歴史を持つ有能な民族である」という御旗の下に一致団結し、独立を勝ち取ったわけである。こういったプロパガンダが講じてしまい、現在のインド人DNAの一部を形成してしまったのではないかと思える。すなわち、インド人をして世界的な雄弁家に仕立て上げたということだ。
言葉を変えて言えば、行動より口が先、という国民性を形成することになったのではないか。日本人がインド人嫌いになる理由として「自己主張が強い」「話し出したら一人でしゃべっていてほかの人に話させない」。従って、「鼻持ちならず、かわいくないから嫌い」などといったことがよく指摘される。しかし、そういった国民性の形成には、それなりの背景があるわけで、10億を超える民。ヨーロッパが入ってしまいそうな広大な国土。無数の言語と宗教。階級社会における極端な貧富の差。植民地(被支配者)の歴史……。日本人ではおよそ想像がつかない世界がそこ(インド)にはあるのだ。まずはそれらを十分理解することが重要である。そうすると、いままで大きな壁として立ちはだかっていた問題が、それほどでもなくなるから不思議だ。
インド政府は1947年の独立以来、農業と工業分野への投資を中核とした計画的近代化に向けて進み出し、食料と工業生産の自給・独り立ちを目指した。しかしながら、社会主義的混合経済のもたらした多くの弊害(各種補助金の増大、零細企業への税優遇、公営企業の余剰人員や赤字垂れ流しの放置、など)が累積し、加えてそれに外部要因(石油ショック、干ばつ、中印紛争や印パ戦争)が重なり、1991年インドは独立以来最大の経済危機(外貨危機)に直面した。
その際インド政府は、金担保の国際借款で急場をしのぐとともに、市場重視型の経済改革を標榜、インド経済の門戸を世界に開き、新経済政策を矢継ぎ早に実行していった。その結果、かなりの成果が上がり、インド経済はマクロ的には十分に安定してきた。6%前後の経済成長を続け、11億米ドルだった外貨準備は現在1,300億米ドルを超え、対外債務残高は1,200億米ドル台で、GDP比でも17%程度にまで下がった。ゴールドマン・サックスの予測を借りるまでもなく、インドはアジアの経済大国への道を着実に歩み始めている(図1)。
(図1)インド経済指標(1992年度~2004年度) |
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