• 2006/11/13 掲載

【世界のビジネス事情】インドの社会経済とビジネス事情(2/2)

ビジネスインパクトvol.7

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最近のインドビジネス事情


(1) 躍進するインドIT産業
 今やインドのIT産業は世界的な注目を集めている。コンピュータに欠かせないIC(Integrated Circuit,集積回路)は冗談に「Indian Chinese」とも言われている。そのインドのハイテク産業に早くから目をつけたのが米テキサス・インスツルメンツ(TI)である。同社は1986年、南インド、デカン高原南部の標高千メートル程にある都市バンガロールに開発センターを設立。AT&Tなどの協力を得て衛星通信によるオフショア開発体制を整備し、その後のインド・ソフトウエア輸出のプロトタイプへと発展させた。

    ゼネラル・エレクトリック(GE)はジャック・ウェルチ会長(当時)自らインドに乗り込み開発センター(ジョン・F・ウェルチ・テクノロジー・センター)を設立した。今やインドに約2万人の社員を有し、驚くのは総勢2千人弱のエンジニアのうち、約500人が博士号を持っているということだ。またインドを訪れたマイクロソフトのビル・ゲイツ会長(当時)は「インドは人材の宝庫だ」と言い、実際同社社員の2割程度はインド人技術者だという。1998年10月バンガロールを訪れた米ハーバード大学国際開発研究所のジェフリー・サックス所長は「南インド3州(カルナータカ州、アンドラ・プラデシュ州とタミル・ナドゥ州)はITの鉱脈だ。それは金鉱脈より付加価値が高い。

 この鉱脈をいかに南インドが発掘、活用するか、今後のインドマクロ経済の発展の大きな鍵を握る」とまで明言した。わが国のIT産業との絡みで考えれば、早晩こういったインドの若い人材の活用が非常に重要になってくることは火を見るより明らかだ。その辺の対策を早くとっておかないと、日本におけるIT人材の欠乏が危機となって訪れるであろう。人口構成だが、例えば2025年には20歳から24歳までの人口は、インドが1億人超、中国8,000万人で日本はわずか600万人になっているとの予想を考えてみても、うなずける(図2、図3)。

【世界のビジネス事情】日・印・中の2025年の人口ピラミッド(単位:100万人・左:男性・右:女性)
(図2)日・印・中の2025年の人口ピラミッド(単位:100万人・左:男性・右:女性)


(2)インドでもできるモノ作り
 よく耳にするのに「インドでモノ作りは無理」という言葉がある。しかしちょっと待ってほしい。果た して本当にそうであろうか。ホンダのインド合弁企業であるヒーロー・ホンダは、世界最大級の二輪車メーカーである。年間販売台数は200万台を超えた。日本の4大メーカー(ホンダ、スズキ、ヤマハ、カワサキ)の合計で年産80万台程度というから、そのすごさが分かるだろう。

 また、収益力も抜群で、昨年度の配当率はなんと1,000%という驚異的な数字であった。工場は整理整頓が行き届き、流れるようにバイクが生産されていく。その工場にたどり着くまでの道すがらに見られる光景と、工場内の光景との違いの落差にあぜんとするが、両方ともインドなのである。日系企業のインド投資では過去最大規模となる400億円も投じた三菱化学の高純度テレフタル酸(PTA)の生産事業も好調だ。
 2000年に稼動した西ベンガル州の合弁工場は創業から4年たち、すでに累損を一掃、工場拡張も視野 に入れているといわれる。

 一方、インド乗用車市場の5割を握るマルチ・ウドヨグ社を子会社に持つスズキのインド投資も加速度を増してきた。現在の年産50万台にあと25万台を加える投資を決定、2007年初頭に稼動の見通しだ。投資額は発表になっていないが、業界筋では250億ルピー程度(約640億円)になるのでは、と見られている。その経済波及効果は大きく、裾野の分野にいくころには、メーカー投資額の4倍ほどの経済拡大につながるとの試算もある。これら企業の成果を見れば、インドでのモノ作りも十分可能と判断せざるを得ない。要は、日本企業にどこまで本腰を入れインドに進出する気があるかなのだ。

【世界のビジネス事情】IT関連輸出額とIT人材
(図3)IT関連輸出額とIT人材


インドが克服すべき課題


 まずあげられるのは、インフラ整備であろう。その中でも電力整備は待ったなしである。電力需要が発電能力をはるかに上回っているため、いずこも慢性的な電力不足に悩まされている。インドで増大する需要に見合った電力供給には今後10年で10メガワットの追加電力が必要となる。そのための必要資金は国家予算の2倍の8兆ルピー(約22兆円)である。相当の英知を絞らぬ限り、また既存の補助金政策などを止め、痛みを伴う改革をしない限り、現状打破は困難だろう。道路事情もよくない。黄金の4角形という、4大都市をつなぐ幹線道路の整備は進み出したが、市内や周辺の道路事情は相変わらずで、道路整備の進捗状況は満足のいくものとは言えない。そのほか、港湾や国際空港の整備と利便性の向上も急務である。

 財政赤字の改善も重要課題だ。これは政治的要素が大きく関与しており、そう容易にできるものではないが、国家財政の健全化を図ることは、国の信用力を増すことにもつながり、ひいては外資を呼び込む力にもなる。いかにしてばらまき政治をやめるか、困難な問題が残っている。
 将来的に大きな懸念材料は雇用育成であろう。インドの就業人口は2010年までには、約1億人増加するとの試算があり、これらの人たちへの就業機会の提供をどうするのかが大きな問題となってくる。

 農業人口の拡大がそうは望めないとすれば答えは簡単で、製造業の拡大が必要だろう。その際問題となるのは、旧態依然とした労働法の改善や各種規制の撤廃、簡素化である。いずれも既得権益にふれる、否、既得権益のはく奪につながるもので、相当の抵抗が予想される。ここでも、政府の決然たる態度が必要となるのだ。

インドの将来展望は


 個々には問題を抱えるインドだが、将来展望は明るい。現在世界的な注目を浴び、年率30%の伸びが期待できるIT(情報技術)産業。二輪・四輪等の自動車産業も拡大基調にあり、特許法の改正によるバイオも含めた医薬品業界の発展。2,3億の中間層が参加している家電や一般消費財マーケットの急拡大……。

そのほか、今後発掘されるであろう資源の埋蔵量も計り知れない。そういった経済の発展を支える国体としての民主主義政治は健在だ。中長期的に見たときのインドは、非常に魅力にあふれた国だと思う。


■著者プロフィール
1948年生まれ。明治大学商学部卒業。
1972年東京銀行入行。本店営業部、ロサンジェルス支店、事務管理部、大阪支店等を経て、1991年インド・ニューデリー支店次長、1995年アジア・オセアニア部次長。
1997年同行退職。同年4月に(株)インド・ビジネス・センターを設立、代表取締役社長に就任。
2004年インド人技術者を使ったCNCマシン制御用プログラム開発のためのJ/Vをニューデリーに設立。
岐阜女子大学南アジア研究センター客員教授。中小企業総合事業団海外投資アドバイザー。NHK「クローズアップ現代」等のテレビ出演、各方面での講演、執筆多数。

[著書]
『世界の明日 日本の明日を読む』(共著、日本経済新聞社)
『2時間でわかる図解インドのしくみ』(中経出版)
『超巨大市場インド』(ダイヤモンド社)

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