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中国のネット通販最大手のアリババ集団(アリババ・グループ)が、6社分割を決定し、大規模なリストラを進めている。米国ではGAFA(米グーグル、米アップル、米フェイスブック〈メタ〉、米アマゾン・ドット・コム)と呼ばれる巨大プラットフォーム企業が相次いでリストラを余儀なくされており、同じ流れにも見えるが、中国の場合、別の要因が加わっている。それは中国共産党とのギリギリの駆け引きである。
アリババと中国共産党の緊張関係
アリババは2023年3月28日、自社を6つの部門に分割し、独自にIPO(新規株式公開)を目指す方針を発表した。各事業部門では分社化を前提にしたリストラが進んでいるとされる。近年、各国の産業界では、専門分野に集中するため、スピンオフや分割を決断するケースが増えているが、アリババの場合、理由はそれだけではない。同社が6社分社を決定した背景には、中国共産党からの強い圧力が関係している。
実は同社と中国共産党の間には、以前から相当な緊張関係が継続しており、今回の分割によって一定の妥協が図られたと見る関係者が多い。
中国共産党がアリババに対して強く干渉していること背景には、グループ全体が保有する圧倒的な情報力がある。
同社は中国最大手のネット通販事業者であり、BtoB(Business to Business)サービスを提供する「1688.com(アリババドットコム)」、CtoC(Consumer to Consumer)サービスの「タオバオ(淘宝)」、 BtoC(Business to Consumer)サービスの「T モール(天猫商城)」など多数のECサイトを運営している。
グループ全体の利用者数は10億人を超えており、同社だけで中国全体の消費の13%を占めているが、同社が持つ強みはそれだけではない。グループ内にスマホ決済を行うアリペイ(支付宝)というサービスを擁しており、高いシェアを獲得している。クレジットカードがあまり普及していなかった中国では、スマホ決済が爆発的に普及しており、アリペイだけで国内決済の約半分を扱う計算になる(GDPベース)。
しかもアリペイには、個人の決済動向や資産動向、社会的属性などをAI(人工知能)が総合的に分析し、自動的に融資を行う金融サービスまで展開している。これらの情報をフル活用すると14億人いる中国国民の個人的な行動がほぼ丸裸になってしまうという現実がある。
アントグループが突如、上場中止になった本当の理由
中国共産党は国民を監視する広範囲な顔認識ネットワーク・システム「天網」を運用しており、無数に配置された監視カメラを使い、映し出された人物を数秒以内に特定できる体制を整えている。また金融機関のシステムも全て監視対象となっており、共産党幹部や公務員に不正行為があった場合、それを自動的に検知できるシステムもある。
ところがアリペイのような新しい決済システムは、当初、当局の管理下にはなかったため、多くのグレーな資金がアリペイ内に流れ込み、中国共産党はこれを問題視した。共産党の意向を受けた中国政府は2017年以降、相次いで電子決済事業者に対する規制を加え、現時点では決済事業者のほぼすべての取引について政府が監視できる体制を整えている。
しかしながら、巨大な富と影響力を持つアリババグループと共産党の緊張関係はそれだけでは終わらなかった。
同社グループが、これだけの情報を持っていれば、当然の結果として共産党内部の権力闘争に利用されるのは目に見えている。加えて、アリペイを運営するアントグループは別会社として上場を計画しており、上場が実現すれば、莫大な時価総額となり、株主に富が転がり込んでくる現実があった。
アリペイは2020年11月、上海・香港市場に上場する予定だったが、2日前に突如、上場が中止となった。アリババ創業者であるジャック・マー氏は、すでに同社トップを引退していたが、実質的な支配権は引き続き保有した状態だった。マー氏はアントグループ上場の10日ほど前、上海のイベントに出席し、当局の規制方針について批判する発言を行っている。各種報道では、このマー氏の発言に習近平国家主席が激怒し、上場中止が決まったとされているが、現実はもっと複雑である。
習氏は上場中止に際して、同社の株主について厳しく調査するよう命じたとされ、その後、多くの共産党幹部が捜査対象になった。株主として名前が挙がった人物の多くは、習氏と敵対する上海閥の要人であり、共産党内部の権力闘争にアリババが巻き込まれている様子が見て取れる。
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