- 2006/06/05 掲載
【連載】ITと企業戦略の関係を考える[第4回/全5回](4/4)
ITによる競争優位という幻想
そもそも現在、戦略論の中でITを単独で戦略優位の源泉として考えている研究者は、ほどんどいない。市場ポジショニング論をとる研究者はもちろん、資源ベース論派の研究者でもITそのものだけでは持続的な競争優位の源泉にはならないと考えている。
ただし、これは現在の話である。かつてはそうではなかったとカーは考えている。本稿の最初で述べたように、カーは、かつてITが持続的な競争優位を生み出したとして例として、AHSのASAPやアメリカン航空のSabreを取り上げている。これらは、SIS(戦略情報システム)の事例としてよく知られている。
SISの提唱者としてしられているコロンビア大学のチャールズ・ワイズマンは、SISを「競争優位を獲得・維持したり、敵対者の競争力を弱めたりするための計画である企業の競争戦略を、支援あるいは形成する情報技術の活用である」と定義している。SISの信奉者たちは、SISの導入によって、その企業と事業が劇的にイノベートされ、競合企業に打ち勝つことができると信じていた。
しかし、よく事例で取り上げられているASAPやSabreなどに続く成功事例が生まれなかったために、90年代にはSISを信じる人はほとんどいなくなった。(ちなみに日本では、花王のネットワーク受注システム、セコムの連絡網システム、セブンイレブンのPOSシステムなどがSISの事例として取り上げられ、その当時は、これらの情報システムが競争優位の源泉になったと考えられていた。)
つまり、ITによって競争優位が得られるというのは、過去に遡っても、きわめて希なケースであったことがわかる。
にもかかわらず、現在でも、一部のITベンダーやITコンサルタントは、ユーザー企業に対するセールストークの中で、ITを戦略優位を生み出す魔法の杖のような特別な道具のように説明している。
情報システムの歴史を冷静に振り返れば、ASAPやSabreのような事例は極めて希な存在であり、大多数の企業にとって、ITによって持続的な競争優位を獲得できるというストーリーは、かなり古くから幻想だったと考えた方が正しいように思える。
では、ITにはまったく戦略的価値がないと考えてよいのだろうか。次回(最終回)は企業戦略におけるITの位置付けについて考えてみよう。
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