- 2006/06/05 掲載
【連載】ITと企業戦略の関係を考える[第4回/全5回](2/4)
ITと競争戦略論
ここで、カーの論文を少し離れて、ITと競争戦略論の関係について簡単に振り返っておこう。競争戦略論を確立したのはマイケル・E・ポーターである。ポーターは、市場におけるポジショニングが持続的競争優位をもたらすという「市場ポジショニング論」を唱えた。これは、他社との競合関係を考えつつ自社は市場の中でどのような位置を占めていくかを考えるという戦略である。
ポジショニングを考える上でベースとなる要素は3つある。商品、顧客、アクセスである。どのような商品を扱うのか、どのような顧客をターゲットにするのか、どのような地域あるいは場所でビジネスを行うのかである。ポーターは、ITについて、オペレーション効率を向上させるものであり、それだけでは一時的な競争優位は獲得できても持続的競争優位の源泉にはならないと考えている。
競争戦略のもう一つの大きな潮流が「資源ベース論」である。資源ベース論の創始者については諸説ある。1984年のB・ワーナーフェルトの論文が始まりであるという説もあるし、1960年代から1970年代にかけてハーバード・ビジネススクールのケネス・アンドルーズらが行った企業戦略の研究が最初だと考える説もある。
この資源ベース論が注目を集めるようになったのは、1990年にC・K・プラハラードとゲイリー・ハメルが「コア・コンピタンス」というコンセプトを発表してからである。コア・コンピタンスとは「顧客に特定の利益を与える一連のスキルや技術であって、他社に真似できない核となる能力」のことである。ただ、彼らの研究は、コア・コンピタンスを企業戦略にどう生かすかという分析が十分行われていない。
資源ベース戦略論は、J・B・バーニーらによって概念が整理され、企業のもつ資源(人材、資金、技術力、専門能力、組織文化など)が生み出す模倣困難性が持続的な競争優位の源泉になるという基本的な枠組みが固まった。したがって、資源ベース論に従えば、ITがコモディティ化し、模倣可能な要素であれば、ITは持続的な競争優位の源泉とはなり得ないことになる。
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